第298話 動物園の裏側
sideクラーク
「どうやらここに入っていったみたいだなぁ」
「そ、そうですね。はは、奴ら動物園とか本当ガキですよねぇ。こんなのに構うことないですよキャノンさん」
くそ、全く冗談じゃねぇぜ。何でわざわざこんなところまで。俺はさっさとこんな危ない奴らから離れて帰りたいってのに。
とにかくおべっかでもなんでも使って気分を良くしつつ、こっから出るよう促さねぇと。幸い動物園なんざこいつのガラじゃないしな。そこを上手くついて――
「あん? 動物園の何が悪いんだ。最高じゃねぇか動物園」
「えっと、はい……そうですね」
全然駄目じゃねぇか! 何だよこいつ、人通りの激しい場所であんな魔法ぶっ放すくせに、動物は好きなのかよ!
「その、キャノンさん動物が好きなんですね……」
「あぁ。好きだぜ。特に肉食のつえ~つえ~獣がなぁ」
その何を考えているのかわからない笑顔がゾッとする――本当に今すぐ逃げ出したい。だが俺の願いも虚しく結局俺はキャノンたちと動物園に入ることとなった。
だがおかしいんだ。キャノンの奴、園内にいる動物には見向きもくれずスタスタと歩いていく。まるでどこか目的が定まってるみたいに。
しかもどんどん園の端に向かっていくんだが……おいおい、この先は確かもう何もないはずじゃ――そう思っていたんだがなにやらポツンっとボロい小屋が一つ建っていた。
「邪魔するぞ」
「あ、ぼ、坊っちゃん! どうしたんですか突然!」
中に入ると何やら作業着を着た太ったおっさんがいた。突然の来訪者に驚いている様子だが、何故かキャノンのことを坊っちゃんと呼んでいた。
「えっと。キャノンさんの知り合いで?」
「あぁ、まぁな。うちに出入りしていた業者でな、前に金に困ってたようだから心優しい俺様がいい仕事を紹介してやったんだ」
「へ、へへ。その節はどうも――」
おっさんは随分とへりくだった態度でキャノンに接していた。一体何者なんだこいつは? というかいい仕事って何のことだ?
「それはそうと、少し頼みたいことがあるんだがいいか?」
「も、勿論ですとも。坊っちゃんには世話になってますからねヘヘッ」
手もみしながらキャノンに愛想を振りまいている。しかしこんなおっさんに笑顔振りまかれても嬉しくないぜ。
「ああ、実はよ。裏で取引してる魔獣を見せてもらいたくてな。確かそろそろ入荷してた筈だよな?」
へぇ魔獣。それが目的だったのか……て、ハッ? 魔獣!? 今魔獣って言ったよな! あの危険極まりないモンスターたちを売るだって!? そんな馬鹿な! いくら何でも危険すぎるだろ! そもそもどこから仕入れてくるんだよそんなもん! いや、そんなことよりまずいんじゃないのかこれ!
「あ、あの! そんな危険なもの取り引きに使ったら問題になるんじゃ――い、いえ何でもないです……」
キャノンに睨まれたからそれ以上何も言えなくなった。畜生なんなんだよこれ――
「で、どうだ? いるなら見せてもらいたいんだがな」
「いや、確かにいますが、まだ調整しきれてないんで危険なんですよ。とても凶暴な連中で暴れだしたら手がつけられないですし」
「カカッ。なるほどなるほど。ますます気に入った。さっさと見せろ」
キャノンは危険だと言われて寧ろ興味を持ってやがる。冗談じゃねぇぞ。
そんな危ない魔獣なんて見学して何がしたいんだ。だがそんなこと俺から意見できるわけがねぇ。心底嫌だったが、俺たちは小屋の奥に連れていかれた。そこには檻がいくつもあり、その中に様々な魔獣が閉じ込められていた。
そのどれがも凶悪そうな魔獣で、どれも今にも暴れだしそうだった。中には俺なんて一噛みで殺されそうな程のでかい化け物もいた。
なんでこんな危ねぇもん飼ってるんだよこいつら――思わず突っ込みたくなった。
「これはすげぇな。流石は裏ルートでしか手に入らない危険生物だな」
そう言って楽しそうに眺めているけど正気かよコイツ! なんでこんなもん見て喜んでるんだよマジで狂ってやがる。
「へへ、そりゃそうですよ。こいつら本来なら危険すぎて多くの国で飼育は勿論輸入も禁止にされてるほどですからね。だからこそ密輸で稼げるんですが」
おいおいおいおいおい! 何ドサクサに紛れてとんでもないこと言ってんだ! 俺は確かに悪ぶってるが本物の犯罪に関わるつもりなんざねぇんだぞ!
「ふむふむ。それはたしかに面白そうだ。で、こいつら檻から出したらどうなんだ?」
「へへ、い、嫌だなぁ坊っちゃん。そんなのとんでもない騒ぎになるに決まってるじゃないですかい。さっきも言ったように調教も出来てねぇんですから――」
その時だった。轟音が鳴り響き、魔獣が入れられていた檻が――ぶっ壊れた。全ての檻に風穴があいている。
「え。えええぇえええぇえええ! ちょ、坊っちゃん何してるんですか!」
「あん? 窮屈そうにしていたからな。優しい俺様はそんな魔獣が見てられなかっったんだよ。だから出してやったんだ」
俺は一瞬完全に固まっていた。一体何が起きたのかと理解がおいつかなかったからだ。だが、そこに突然現れた魔獣の姿が目に留まり――
「ヒッ! ちょっと、本当何してんですか! やべぇよ! ヤバいって!」
「きゃ、キャノンさんこれは本当に」
「そうですよ、坊っちゃん! こんなことしたら!」
「大丈夫だ。餌はおいてくからな」
「え?」
キャノンが飼育係のおっさんの膝に指を向けた瞬間、おっさんの片足が吹っ飛んだ。バランスが取れなくなったおっさんは地べたに這いつくばる他なかった。
「な、坊っちゃんどうして……」
「そろそろ潮時だと思ってたんだよ。それにお前、魔導具で俺とのやり取りを記録してただろう? 全く油断も隙もねぇ奴だ。本当ならすぐにでも始末するとこだが丁度いい。魔獣の餌として役立て」
キャノンは冷たく言い放ち踵を返した。助けを乞うおっさんを無視して仲間たちと引き返していく。俺はそれに従う他なかった。
「い、いやだぁああ! 坊っちゃん違うんです! 念のため記録しておいただけで、ヒッ、く、くるな、う、うわぁああぁあぁああ!」
背後からおっさんの絶叫が聞こえてきた。直後、魔獣の唸り声と咀嚼音が響いた。何なんだよこれ、こいつ、こんな真似して平気なのかよ。そう思ってキャノンの顔を見てみたんだが――
「カカッ、これであの魔獣どもも人の味を覚えたな。さぁ、こっからあいつらがどうなるか見ものだよなぁ――」
そう言って愉しそうに笑っていた――
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