第299話 魔力0の大賢者、動物と触れ合う
遊園地の乗り物でひとしきり楽しんだ僕たちは、園内にある動物園を見学することになった。
それにしても動物か。転生前から色々と野生の動物を見てはきたけど、こういう施設でゆっくりと動物を眺めるという経験は初めてな気がするよ。
「お兄様見てください。ユニコーンがいますよ」
「本当だ。綺麗だよねぇ」
「見事な角ですね」
「私が乗るに相応しい美しき白馬ですわ」
ラーサが指さした先にはその美しい一本角が特徴のユニコーンが佇んでいた。アンとフレデリカも興味津々といった様子だ。
ユニコーンは白馬しかいないことでも有名だね。
「あれ? でもここに書いてるのとちょっと違うような?」
疑問点を口にしたのはラーサの友だちのアンだった。各種動物の前には名前や生態に関する説明が用意されていたりする。
僕も見てみたけどユニコーンの説明自体に特に問題はない。ただ説明では希少なユニコーンだが敢えて群れで飼育し仲間たちとのびのびとした環境で過ごさせている――。
そうあるのだけど見るに数は数頭といったところでそこまで群れといった印象はないんだよね。
「マゼル。あっちにはペガサスがいるって。乗ることも出来るみたい」
「おお、向こうにはでかいカエルがいるぜ」
アイラが指さした方には確かにペガサスがいた。係員同伴でペガサスに乗って飛ぶことが出来るみたいで、上空にはペガサスの背中に乗ってはしゃぐ子どもの姿もあった。
モブマンはカエルに興味があるみたいだね。かなり大きなカエルがピョンピョン飛び回っている。
「ペガサスにマゼルと乗りたかったのに待ち時間が……」
アイラがシュンっとした顔を見せた。かなり行列が出来ていて待ち時間も長い。
「本当人気よねペガサス」
「だけど前はもう少しスムーズじゃなかったか?」
「数も少なくなってるような……」
ふと待っているお客さんのそんな声を耳にした。う~ん、話を聞くに以前とは異なってる点があるようだね。
「見てみて! バジリスクの卵だって! 大きい! 一杯卵料理作れそうだよ!」
「リミットよだれ……本当持ち帰ったりしないでよね」
「本当何でも食い物に見えてるのか?」
バジリスクの卵に目を奪われているリミットにメドーサとアズールが細めた目を向けていた。バジリスクの卵は確かに大きい。流石に動物園から持ち帰ったりはしないと思うけどね……しないよね?
「マゼル~すごいよあれ首がすっごいなっがーいぃい!」
ビロスが僕の袖を引っ張ってはしゃいでいた。あの動物はジラフだね。黄色い毛に斑紋が備わった体躯。何より長い首が目を引く動物だ。
「へぇ~ジラフもいるなんて思わなかったさぁ。生息地は大陸の西に限定されてるはずだしねぇ」
「ししょ、いやスーメリア先生」
「あっはっは。私のことはスメちゃんと呼んでと言ったじゃないか」
チョキにした指を顔に持っていてキラーンっとした精霊の演出とともに言ってきたけど師匠相手にその呼び方はちょっと……。
「動物園言うのもおもろいもんやなぁ。商売の匂いも感じるで」
リアが動物を見て笑いながら言っていた。えっと商売の匂いって一体――
「ふむ。ところでマゼル君はこの動物園を見てみて何か思ったことはあるかい?」
ふと、師匠がそんなことを質問してきた。う~んこういう形で色んな動物が見れるのは楽しいけどね。
「何か一部の動物は案内と状況が違うみたいですね」
「確かにそうなんだよねぇ。それに前はもっと動物たちも活気にあふれていたはずだけど今はちょっと大人しすぎるかな」
確かに言われてみれば……伸び伸びとした環境で本来の動物たちの良さを活かした飼育環境を売りにしているような説明も見たけど、動物たちが行儀良すぎな気もするんだよね。
「前はってことは先生は以前もここに?」
「うん。そうだね前の園長とはわりと懇意にしていたし彼の方針には共感できる点も多かったからね」
そう言って師匠は笑っていたけど、前のということは今は変わったということかな――
「さてと、それじゃあねマゼル。皆で楽しむんだよ~♪」
「あれ? どこかに行かれるんですか?」
「うん。ちょっとね。それにここには知り合いもいるからねぇ」
そう言って手をヒラヒラさせて師匠がどこかへ言ってしまた。相変わらず神出鬼没でつかめない人だなぁ。
「見てみてガロン。こっちには狼がたくさん。シグルも見てみて」
「ガウ」
「あ、あぁ。確かに多いな……」
向こうではアニマとガロンが一緒に狼を見ているね。ただ、ガロンにちょっと戸惑いが感じられるような?
「こっちにはファンファンの仲間がいます! ありえますね!」
「ちゅ~♪」
アリエルとファンファンがはしゃいでいる。白綿ネズミも結構珍しい種だから仲間を見れて嬉しいのかもね。
「うぅ、僕は女の子と見て回りたいのに何でお前たちなんだよ~」
「黙れ。さっきから見ず知らずの女性に声を掛けてばかりで恥ずかしいことこの上ないのだよ」
「フフン。そこに美しい女性がいたら声をかけるのは当然じゃないか」
「見事に撃沈していたけどね」
「うるさいよそこ!」
グリンとシルバとブルックは三人で見ているようだね。仲がよくなったようで友情を感じるよ。
「あ、あのマゼル様……」
「あ、イスナ。どうしたの?」
イスナに声を掛けられたのだけど僕を前にして何かモジモジしてる。顔もちょっと赤いし……ハッ! そうか!
「えっとあのねイスナ。その、お花を摘むなら向こうに」
「ち、違います違います!」
え? 違うの? 何か恥ずかしそうにしているからてっきり……。
「その、向こうに珍しい動物が、い、いるみらいで、一緒に、い、いきませんか?」
上目遣いにそんなことを聞かれたよ。向こうにはそういえばまだ行ってなかったけど、な、なんだか可愛い。年甲斐もなくドキドキしてしまうよ! 転生前から足したら結構な年齢なのに!
「駄目、ですか?」
「い、いやいや。勿論いいよ」
「……良かったぁ~」
何かホッと胸をなでおろしている。う~んでもそんなに見たかったんだね。自然とともに過ごすエルフは動物好きでも知られているからね。
「じゃあ行こうか」
「……は、はい」
う~んなんだろう? 見に行くと決まったけどまだちょっとソワソワしてるような……。
「――大賢者殿。人混みで逸れては困るのでどうか手を握って上げて貰えぬか?」
「え!」
するとイスナと一緒に回っているクイスが耳打ちしてきた。て、手を? いや確かに人も多いしイスナはエルフの国のお姫様だから確かに逸れるわけにはいかないね。
なんだか緊張するけど――
「えっと、その、逸れないように……」
「え! あ、その……宜しくお願いします」
緊張しつつ僕が手をだすとイスナもそっと僕の手を取ってきた。や、柔らかい――
『グォオオォォオオォオォオォオオオン!』
「な、なんだ?」
その時、どこからか園内に轟くような咆哮が聞こえてきた。イスナもキョロキョロと周囲を見回して警戒心を示している。
そして魔導スピーカーから園内に緊迫した声が響き渡る。
「緊急事態発生! 只今飼育エリアにて危険な魔獣が暴れています! 園内のお客様は従業員の指示に従い速やかに避難してください!」
危険な魔獣――? どうやら厄介なことになってそうだね……。
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