第292話 魔力0の大賢者、上級生にまた絡まれる?
「……誰?」
近づいている男をアイラが訝しげな目で見ていた。どことなく不穏な空気を纏っているからだろう。
ドミルトン先輩に手を出していたとは言え、その時、僕にも手を上げてきたクラークが怪我しているのも気になった。
「声かけてきた人の事は知らないけど怪我をしているのは前に本校舎の手洗いで――」
僕は前のことを思い出しながらアイラに説明した。現場は見てないまでもドミルトン先輩が怪我していたのをアイラも見ている。
だからすぐに察しがついたようだ。それはイスナやクイス、アリエルにしても一緒だ。
「クラーク。そこにいるのがマゼルって奴で間違いないな?」
「は、はい。そうですキャノンさん――」
クラークが答えた。顔は蒼く恐怖からか強張っている。明らかに今キャノンと呼んだ男に畏怖の念を抱いている。
「なるほどな。マゼルぅ。どうやらお前が俺の子分に手を出してくれたようだな。見ろよこんなに怪我して可哀想になぁ」
更に距離を詰めて僕を名指しして来た。この一瞬で空気が張り詰める。
皆も警戒心を抱いているようだ。それにしても仲間を子分扱いか。それにクラークの怪我に関しては明らかに僕とは関係ない話だ。
「……彼が一緒にいた先輩に暴力を振るっていたから止めただけですよ。それとその怪我は僕がやったものじゃない」
「あん? いやいやこの怪我お前こいつにやられたんだよなぁ?」
「そ、そうです……」
クラークが肯定した。だけどこれはもう脅しだね。クラークは明らかにキャノンの言いなりだ。
「こいつもこう言ってるぞ。なぁお前上級生に逆らっていいことにはならないよなぁ。礼儀がなってないようだなマゼル」
「いい加減にしてください!」
キャノンが妙な圧を発している中、ラーサが僕の隣に立って声を張り上げた。
「上級生だから何ですか? 間違った事をしたのだから咎められて当然です」
「ちょ、ラーサ流石にまずいんじゃ……」
ラーサと一緒に来ていたフレデリカが心配そうに声を掛けてきた。アンもおろおろしている。
キャノンも上級生だろうし、下手に逆らったら目をつけられると心配しているのかもしれない。
「へぇ。中々気の強い女だねぇ。そいつはお前の何だ?」
「……貴方には関係ないですよね」
「私はお兄様の妹です!」
「ら、ラーサ大丈夫だから――」
ニヤニヤしながら聞いてくるキャノンに答えつつラーサを制した。正直大事な妹に関わらせたくない相手だったんだよね……。
「妹? あぁなるほどな。新しく出来たっていう幼年組か。ふ~ん。なるほどねぇ」
ラーサをねちっこい目つきで見てきた。妹に対する視線が嫌な感じだ。
「結局貴方はマゼル様に何の用なのですか?」
イスナも話に参加した。隣には厳しい目つきのクイスの姿。
「その耳エルフか。そういえばわざわざ留年してきた変わりもんのエルフがいるって話だったなぁ。あんたがそうか」
「貴様、初対面にも関わらず姫様に無礼が過ぎるぞ」
クイスの空気が変わった。腰の剣に手を添えている。キャノンの言動一つで斬りかかりかねないね。
「おお、怖。だがなぁ
「それなら敬われるような言動を心掛けては?」
僕は口を挟んだ。挑発っぽくなってしまったのはキャノンとクイスの意識を逸したかったというのもある。
それにこの男、最初から狙いは僕だったと思う。それなら僕だけをターゲットにして貰った方がいい。
「――なるほどなぁ。確かにそうだが、面と向かってそこまで言えるたぁ生意気な後輩がいたもんだ。アッハッハ! いいぜ気に入った」
そう言ってキャノンが僕の肩に手を置いて笑った。急に大らかな空気を醸し出しているけど逆に不気味だ。
「悪かったなぁ。ちょっと挨拶代わりに後輩に意地悪してみたかっただけなのさぁ。邪魔して悪かったなぁ。じゃあ――またな」
そう言ってクラークを連れてキャノンが立ち去った。ちょっと意地悪ね……それにまたなという台詞も気にはなったけど、立ち去ったならこれ以上気にしても仕方ないか――
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