第293話 魔力0の大賢者、の忠告

「なんだかおかしな先輩もいたもんだな」


 アズールがやれやれと頭を擦って言った。折角の魔法学園なわけだし出来るだけいい先輩にめぐり逢いたいものだよね。


「気を取り直してお昼を食べる」


 アイラが言った。そういえばもうそんな時間になるんだね。


「あ、それならうちいい店しっとるで」


 リアからの提案だった。凄く明るい表情を見せてくれている。もしかしたら今のでちょっと微妙になった空気を変えようとしてくれているのかもしれない。


「これからお昼、ありえます!」

「お兄様。私たちもご一緒しても……」

「勿論だよ。皆で食べようよ」


 お昼についてラーサが聞いてきたけど、僕としてはもとよりそのつもりだ。ラーサの友だちも一緒にお昼にいけることを喜んでくれた。


 ついでに午後に行く予定の遊園地も一緒にいこうという話になった。後は一旦別行動していた皆との待ち合わせ場所に向かって合流するだけ――


――ドォオォォオオォオォオンッ!


 突如轟音が鳴り響いた。モクモクと煙が立ち上げ周囲の視界が奪われる。


「ゴホッゴホッ! これ一体どうなってんだ?」

「め、メガネが曇って……」


 モブマンが咳き込みネガメはレンズを気にしているようだ。


 そして僕は皆の前に立ち手のひらを正面で広げていた。何かが発射されたのを感じ取ったから受け止めたんだ。


 爆発はそれによって起きた。かなりの爆発だ。もし僕が気づいてなければ皆がどうなっていたか――


「ちょっと行ってくる――」

「え? マゼル様一体どちらに?」


 イスナから声が掛かったけど、あいつらは既に立ち去ろうとしていたからその時には既に僕は動いていた。


「どこへ行こうっていうのさ」


 そして僕は素早く回り込み――改めてキャノンと対峙した。


 僕に気がついて一緒にいるクラークが面を食らったような顔をしていた。他の取り巻きもだ。


 ただキャノンだけは一瞬眉が反応したけど他の連中と違ってすぐに不敵な笑みを浮かべ口を開く。


「驚いたな。一瞬にしてここまで来るとは、一体どんなトリックだ?」

 

 そう言ってまじまじと見てくる。こんな質問に一々答えていても仕方ない。


「僕のことはどうでもいいよ。それより何であんなことした」

「あんなこと? 何のことだ?」


 ニヤニヤしながらキャノンが答えた。こいつしらばっくれるつもりなのか。


 あれは明らかに魔法だった。僕はそれを手で防ぎつつ見たんだ。キャノンが僕に人差し指を向けながら口角を吊り上げているのを。


「あの爆発だよ。魔法で攻撃してきたんだよね?」

「しらねぇな。何か根拠があって言ってるのかい?」

「指を向けてきているのをはっきり見たよ」

「お前の中では指を向けた奴はもれなく犯人なのか? そんなことで疑われる方はたまったもんじゃねぇな」


 顎をさすりながら悪びれることもなくキャノンが答える。


 確かに指を向けただけと言われては僕も何も言えない。眼の前で攻撃されたわけでもない。


「どうした? まさか何も証拠がないのに俺を疑ったのかよ」

「……そっちがそういうつもりならわかったよ。幸い今回は誰も怪我をしてないからね」

「カカッ。それは良かったな。大事な大事な妹ちゃんも傷つかなくて済んで」

「――あのさ」


 不快な笑い声を上げながら語るキャノン。そんなキャノンに僕は一つだけ言わせてもらうことにした。


「今回は仕方ないけど、今後もし僕の友だちや妹をわずかでも傷つけることがあったら――絶対にお前たちを許さないから」

「「「「「ヒッ!?」」」」」


 クラークを含めた取り巻きが短い悲鳴を上げた。思わずちょっと威圧を込めてしまったからか。


 キャノンは一瞬顔が歪むも、その後は片目だけ瞑って僕を睨んでいた。どうやら他の連中よりは肝が据わってるようだね。


 とにかく忠告はしたし僕は皆の下へ戻った――

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