第290話 魔力0の大賢者と商人の娘
「うちも麻痺王学園に入学したしな。折角やしおとんと取り引きのある店の杖でも見せてもらおうか思ってきたんやけど正直がっかりやな」
ゴールドと呼ばれていた彼女が店長に向けて言い放った。
店長の横ではさっきまで横柄な態度を取っていた店員が青い顔して俯いているよ。話を聞く限り少女の両親はこの店のお得意様のようだね。
「おい! どういうことだ! まさかお前ゴールド家のお嬢様に失礼なことをしたのではあるまいな!」
「そ、そんな滅相もない! お嬢様にはそこまでのことは断じて!」
両手を振って店員の男が弁解していたけど彼女にも結構なことを言っていたとは思うね。
「その子のこともお前呼ばわりしたり追い返しておけばよかったと言ったりしてた。それが失礼なことじゃないなら一体何だと言うの?」
「だ、黙れ! 部外者は引っ込んでろ!」
アイラが口を挟むと店員が目を見開いて怒鳴り散らした。う~んこの状況でその対応はどうかなと思うよね。
「あの、相手が誰であろうとお客様相手にその態度は褒められないと思いますよ?」
「う、うるさい次から次へと!」
「いや、ほんまその通りやろ。二人とも何も間違ったことは言ってないと思うで」
僕もついつい口はぼったいことを言ってしまったけど、ゴールドは僕たちの意見に同調してくれた。
「商売ちゅうもんはお客様がいてこそや。だからこそ客商売は誠心誠意尽くしてなんぼやねん。その気持ちをなくした時点で商売人失格やで」
ゴールドがピシャリといい切った。これには相手もぐうの根も出ない様子だ。
「お前はもう下がれ」
「し、しかし――」
「黙れこれ以上私に恥をかかせる気か!」
店長に厳しく言われ彼はすごすごと奥に引っ込んでいった。表情を見るに店長に叱られたことが堪えてるようだね。
「もうしわけありませんお嬢様。あの者は即刻クビにいたしますので」
「う~ん。それはそれで無責任ちゃうか?」
「え? む、無責任ですか?」
店長はあの店員を辞めさせるつもりだったみたいだけどゴールドはそのやり方には否定的なようだね。
「せやで。あのアホの態度は許されへんけど、それを良しとさせたんはこの店の教育がなってないからやろ?」
「そ、それを言われると耳が痛いですな」
「そう思うんやったら尚更や。それにあんなんこのまま放り出しても他の店で似たような事して店にも客にも迷惑かけるだけや。雇ったんやったら責任持って常識ぐらい教えるべきやろ」
ゴールドが諭すように店長に言ったね。店長もバツが悪そうな顔をしているよ。
「お嬢様がそう言われるならクビだけは辞めておきましょうよ」
「せやな。とりあえず杖全部しっかり磨かせて自分が何を扱っているかわからせるところからはじめるとえぇかもな」
「なんとそのような貴重なアドバイスまで頂けるとは本当にありがとうございます」
店長が随分とペコペコしているね。だけど、クビにして終わらせることを良しとせずしっかり反省させるという考えはいいね。
「皆様も大変失礼いたしました。どうぞごゆっくり杖を見てあげてください」
その後は改めて店長が謝罪してくれたよ。なんだか逆に申し訳なく思うね。
それにしては店を経営するというのは大変だよね。勿論それは転生前も今も変わらないと思うけどね――
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