第289話 魔力0の大賢者、皆の杖を選ぶ?

 僕たちは杖の店に来ていた。店員の態度は正直あまりいいとは言えないけど、杖の種類は豊富だと思う。


 ただ、魔力がない僕には使いこなせいない代物でもあるんだよね。


「杖って何でもいいんだっけか?」

「過度に性能が高いのは駄目。入学の時に貰った案内に基準が書いていた筈」

「やべぇ全然覚えてねぇ!」


 アズールの疑問にアイラが答えていた。その横でモブマンが頭を抱えているよ。


「う~ん杖もいいけど僕の場合やっぱりメガネかなぁ」


 杖を手に取りながらネガメがメガネも弄くり呟いていたね。彼の魔法はメガネも大切だ。


「マゼル様。この杖はどうでしょうか?」


 イスナに話しかけられた。見ると木製の杖を持ってポーズを決めていた。な、何か凄く可愛らしいポーズだよ。


「凄く似合ってるよ。ただその杖は精霊好みではないかも」

「流石大賢者様! そこまでわかるのですね!」

「いや、姫様なら一目瞭然だったかと思われますが」

「あはは――」


 精霊は自然のものを好むと言うから木製の杖を手にとるのは当然だと思うけど、ここで扱っている杖は精霊魔法の利用を想定していないみたいだからエルフにはあまり向いてなさそうだ。


 ただクイスの様子を見る限りイスナもそれはわかってそうだね。だとしたらおしゃれ目的だったのかもしれない。

 

 だとしたら余計なこと言っちゃったかな?


「わ、私の杖はありえますか!」

「ちゅ~」


 今度はアリエルが杖について聞いてきたよ。えっとそもそも僕は杖が使いこなせないんだけどなぁ……。


「お兄様私も――」

「いい加減にしろ! ここはガキの遊び場じゃねぇんだぞ!」


 ラーサも杖を持って僕へと駆け寄ってきたのだけどその途中、店員の怒号が飛んだ。


「たく、ガキがきたねぇ手でベタベタ触りやがって。買いもしない癖にふざけるな!」


 どうやらあの店員僕たちが冷やかしできてると決めつけているようだ。


 実際僕は杖が使えないし手には取らないで見ていたけど皆は気に入った杖があれば買うと思うんだけど――


「私たちは学園で使う杖を探している。気に入ったのがあれば買う」

「ガキの小遣いで気軽に買えるような杖がここにあるわけないだろう。調子に乗るな!」


 アイラが不機嫌そうに言い返していた。だけど店員は耳を貸そうとしない。


 アイラの額に筋が……そ、そうとう頭に来ているようだね。


「あの。壁には杖は自由に手にとって見てくださいと貼られてますが――」


 とにかく一方的にこちらが悪いみたいに言われるのも心外だから僕も張り紙を指さして指摘した。


 だけど店員は鼻息を荒くさせながら僕を睨んできた。


「これだからガキは。こんなもの建前に決まってるだろう! これはな金を持ってる上客だけを指して書いてるんだよ」

「何や。そんなん初めてきいたで」


 その時だった、僕たちが店に入った時に先に来ていたお客の女の子が会話に割って入ってきた。


 外に跳ねたような金髪をした女の子だった。変わった口調をしていてくりっとした大きな瞳で店員を見ていた。


「チッ、最初に見ていたガキか。こんなことならお前からとっとと追い返しておくんだったぜ」

「はは、何をそんなけったいなこと言うてんねん。この店、年利制限あったんか?」


 不機嫌そうな店員に臆すること無く彼女が言い返した。変わった口調の子だね。


 そんな彼女の態度で逆に店員の方が鼻白む。


「いい加減にしろ! お前何様のつもりだ! 何度も言わせるな! ここはお前らみたいな金にならないガキが来るところじゃねぇんだよ」


 店員が叫んだ。さっきから決めつけが酷いねこの人は。


「さっきから騒がしいね。何かあったのかな?」


 すると奥から中年の男性が姿を見せて店員に問いかけた。雰囲気的にお客ではなさそうだね。


「は、店長! いえ実は妙なガキが店を彷徨いていたのでそれで」


 店員が慌てて対応していた。この方が店の店長だったのか――


「妙――ハッ!? こ、これはこれはゴールドお嬢様まさか来店頂けるとは!」

「……は?」


 すると店長が先に来ていた女の子を認め慌てだした。ゴールド、それがこの子の家名なのかもしれないけどどうやら店長は知っている子のようだね――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る