第285話 上級生のメンツ

side クラーク


「クラーク~お前さぁ。俺に何か言う事ない?」


 昼休みに入り、俺は三年のアインドル先輩に呼ばれた。あの時一緒だった連れも一緒で空き教室に連れてこられ、今は三年の先輩に囲まれた状態だ。


 俺らは揃いも揃って蛇に睨まれた蛙の如くビクビクしながら先輩の顔色を覗っている。


「その、な、生意気な一年がいたんでちょっと締めようと思ったんですが邪魔が入って……」


 そうだ。嘘は言ってない。あの時風紀委員に邪魔をされたんだ。そうでなきゃあのマゼルってガキは俺の拳で――


「ふ~ん……」


 アインドル先輩が立ち上がりゆっくりと近づいてきた。蛇のような目でじっと俺を見続けている。

 

「お前、くだらない嘘つくなや」


 途端に俺の顔面が痛み。そして熱、爆発して――


「あ、あぢいぃいぃいいしいいいいい、でえぇえええええいいぢいぃいいいいいぃいでぇしいえいぃいいいッ!」


 痛みと熱が交互に襲ってきた。俺は無様に床を転げ回る。その後連れもふっとばされているのがわかった。


「そろいもそろって一年ごときになめられやがって。しかも話によると魔力もねぇ落ちこぼれだって言うじゃねぇか。なぁ?」

「ヒッ! す、すみません! でも俺ガッ!」


 腹にアインドル先輩の足がめり込んだ。その後集まっていた三年に連れもボコボコにされた。


「も、もう、勘弁、して、くだ、さい」

「フンッ。情けねぇな」

「流石に殺しちゃ不味いぜキャノン」

「チッ――」


 三年の誰かがアインドル先輩をなだめてくれた。た、助かった……。


「まぁ、いいさ。じゃあとりあえずその魔力なしの一年の特徴、教えろや」

「は、はい――」


 そして俺はその時見た印象も含めてアインドル先輩に伝えた。あの野郎のせいで俺らは酷い目にあったがその変わりこのイカれた先輩に睨まれたんだ。へへ、終わったぜあいつ、ザマァ見ろ――






◇◆◇


「マゼル。日曜日」

「えっと、そうだね」


 アイラたちが僕たちの過ごす寮までやってきてそんな事を言った。日曜日は授業が休みだからアイラたちも朝からここに来れるわけだね。


「日曜日は許可さえ貰えば街にでれる。だから行こう」

「えっと、顔近いね――」


 目の前に顔があってすごく照れる。アイラ美人だしね――


「アイラ、少々距離感がおかしくありませんか?」

「姫様落ち着いて! 凄まじい炎が浮かび上がってます!」


 イスナも一緒に来てくれたみたいだけど確かに何かメラメラと背後で燃えていて熱気が凄いよ!


 どうしたのイスナ!?


「相変わらずマゼルはモテますね」

「はぁ。俺にも出会いが欲しいぜ」


 遠巻きに見ていたネガメとモブマンが何かため息交じりに言ってるけど何だろう?


「でも街に繰り出すって悪くないよね。美味しいもの食べたい!」

「あんた本当に食べ物ばかりね」

「あ、でも街でメーテルとシグル用の食事も買っておきたいかも」

「ふむ。街にいい参考書があるかもな」

「ガロンって結構真面目だよな」

「はは、でも僕も本は見てみたいかも」


 どうやらクラスの皆も街に出ようと思ってるみたいだね。


「せっかくだしシアンとメイリアも一緒にどうかな?」

「――必要性を感じませんとお答えします。それに私はマスターに会いに行くのでとお答えします」


 誘ってみたけどメイリアは予定があるみたいだね。


「……私もいい――」


 シアンもそう言って踵を返した。だけどその手をリミットが掴む。


「えぇ~そんなこと言わずシアンも一緒に行こう――」

「触らないで!」


 シアンと仲がいいリミットは彼女と街に行きたかったようだ。だけどシアンはパンッと掴まれた手を跳ね除けて、そしてこれまで発したことのないような声で叫んだ。


「シアン、ちゃん?」

「――ごめん。でもでかけたり好きじゃ、ない……」


 そう言ってシアンが走り去ってしまった。


「……私、嫌われるようなことしちゃったかな」

「いや、ほら! きっとシアンにも何か事情があるんだよ。嫌われたなんてことないと思うよ!」


 落ち込むリミットを見て思いつく限りの言葉を掛けた。


 シアンに何か事情があるのは確かだと思うんだけどね……その後は皆も宥めてくれた。


「――こういう時は無理強いしても良くない。先ずは街で興味ありそうな物を買って引き付ける」

「そ、そっか! うん。きっと街に美味しいものがあるとわかったら次は出かけたくなるよね!」

「それはありえるのです!」

「ちゅ~!」

「ビロスも美味しいの好き~」

 

 結局アイラの提案でリミットも元気を取り戻したよ。そして僕たちは休日を街に出て過ごすことになったんだ――

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