第284話 魔力0の大賢者、司教に疑われる
「馬鹿を言うな! 傷を癒やす魔法を教会に所属もしない、しかも魔力もない落ちこぼれにつかえるわけないだろうが!」
ゼミラルが唾を飛ばしながらアズールの話を否定した。まぁそもそも僕のは魔法じゃないしね……。
「全く嘘ばかりいいおって所詮Zクラスか」
「随分と偉そうですね。見もしないで決めつけて」
「何だまた貴様か」
悪態をつくゼミラル相手にドクトルが再び口を挟んだよ。教会相手だと妙に喧嘩腰にも思えるんだけど――
「それにさっきから偉そうに言ってるけど別に怪我を治療できるのは教会だけじゃない。薬があれば魔法の力もいらないし――例えば糸をつかったりで怪我を塞ぐ方法だってあるんだ」
ドクトルが尖った声で言い放った。ゼミラルが怪訝そうに眉を顰めている。
「全く気に入らん連中だ。大体薬など効果は高が知れとる。糸を使う方法などただの詐欺だ。比べる価値もない」
「詐欺だって――」
ドクトルの空気が更に澱んだ、気がした。手から糸が伸びている。これはよくないかも!
「そ、それよりほら! 時間がもったいないし授業の続きを聞かせてくださいよ!」
嫌な予感がして二人の間に割って入った。話題をそらして空気を変えないと!
「――フンッ。興が冷めたわ。今日の授業はここまでだ! 全く落ちこぼれ共のおかげで時間を無駄にした!」
まだ授業時間は少し残っていたけどゼミラルが司祭を連れて教室を出ていってしまった。
ふぅ。途中で出ていくのもどうかと思うけど、ドクトルの様子もおかしかったしかえって良かったかもしれないね。
「……ごめんマゼル。気を使わせちゃったね」
「え? いや、そんな。ただ聖魔教会とは折り合いが悪そうだね」
これまで一緒に授業を受けてきたけどこれまでドクトルはあそこまで感情を荒ぶらせることはなかった。
どちらかというと落ち着いた雰囲気だったしね。だからちょっと意外にも思ったんだよね。
「確かにちょっと怖いぐらいだったな。もしかして過去に教会と何かあったのか?」
ガロンも気になったようでドクトルに聞いていた。
「――じ、実はさ。むかし食あたりを起こした時に教会に駆け込んだんだけど何かあまり良い対応されなくてそれからあまり好きじゃないんだよね」
ははっ、と苦笑しながらドクトルが答えた。バツが悪そうに頬を掻いていてちょっと困ったように眉を落としている。
「わかる! お腹が痛いときってきっついよね! これ以上食べたくても食べれなくてストレス溜まるし! 私も昔ステーキ五十人前とか食べた時にお腹痛くなって苦しくなって辛くて苦しかったもん!」
「あんたのそれはただの食べ過ぎでしょ」
リミットが拳を握りしめてドクトルに同情していたけどメドーサにビシッと突っ込まれていたよ。
ドクトルも笑っているし雰囲気も元に戻ったね。正直それ以外の理由がありそう思えるけどあまり触れてほしくないのかも知れないしこれ以上は聞かない方が良さそうだね。
「……お前も色々大変そうだな」
「え? あ、うん――そうだね」
だけどアズールに声を掛けられた後の表情はどこか寂しそうでもあったね……。
「やれやれ利口な方法ではありませんね、とお答えします。無難に話を聞いておけば教義を最後まで聞くことも出来たでしょうに」
メイリアが横目で僕たちを確認した後呆れたように言った。それ言われると僕も申し訳なく思うね――
「全くやってくれたものだな。おかげであのジジィにぐちぐち嫌味を言われたぞ。面倒クセェ」
教義が終わった後、教室に来たイロリ先生がそんなことを言った。
そうか……何かあるとイロリ先生も言われてしまうんだね。
「申し訳ありません。僕がつい口を挟んでしまったので」
「いえ、悪いのは僕です。つい感情的になってしまったので」
僕が謝るとドクトルも立ち上がり一緒に謝ってくれた。最初に怒らせたのは僕だろうしドクトルには気にしてほしくないところだけどね。
「……まぁいいさ。どうせあのジジィは何かと文句をつけてきそうなタイプだったからな。早めに性格がわかっていっそ清々しい。ふぁ~さぁ面倒だが授業に入るぞ」
こうして残りの授業はイロリ先生が受け持ってくれてその後は特に問題なく終わったのだけどね――
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