第283話 魔力0の大賢者、教義を受ける
「今日から本校舎から他の教師も授業に来る。はぁ~……まぁ頑張れ」
「何か凄く面倒くさそうじゃん」
後日朝の挨拶時にイロリ先生から今後の授業方針的な話があったのだけど、他の教師についてアズールの言うようにちょっと面倒というか大変そうな空気をにじませていたね。
「……今日来るのは聖魔教会から派遣されてきた司教の爺さんだ」
「聖魔教会が……」
イロリ先生が話を続けるとドクトルが若干顔を険しくさせて教会の名を呟いていた。
そういえば以前も教会と聞いて反応していたような――
「一応授業だ。良く聞いておくんだな」
こうしてこの日の授業が始まった。午前中前半はいつもどおりイロリ先生の授業だったけど、お昼前に朝聞いていた聖魔教会の司教から授業を受けることになったんだ。
「ふん。こんな山奥までわざわざ来るなて面倒でしかないのだがな。大体落ちこぼれのZクラスなぞにこの私のありがたい教義が理解出来るもんか」
う、う~ん……開始早々こんな感じだった。聖魔教会の面々は前に挨拶していた三人だったけど話をしているのはゼミラルという司教だけで他の司祭はそばで見守っているだけだね。
「ありがたいとか自分で言っちゃうんだこの人」
「ははっ……」
メドーサが呆れたように呟いていた。苦笑いしか出来ないね。何か皆も良いイメージは持ってなさそうだよ。
「――つまり神に使えし人間は常に神に感謝しその気持ちを寄付という形で表す必要があるのである。神により多くの寄付をすることで多大なる恵みを神はお与えくださり平等かつ公平にその身を――」
「あの――」
聖魔教会の言うありがたい教義というのが始まったのだけど、疑問に感じたことがあったので思わず手を上げてしまったよ。
「何だ貴様は話の腰をおるな」
「いえ、ちょっと気になったというか……そのお話だと神様は寄付が多いほど恵みもより多くなるのですよね。それなのに平等なのですか?」
そこがちょっと引っかかった。何か矛盾してるような……。
「貴様確か魔力が0とかいう無能だったな。名は確かノザルだったな」
「マゼルです」
いきなり名前を間違うなんて随分と失礼な人だなとは思う。
「黙れ! 貴様の名前なんぞどうでもいい口答えするな!」
えぇ……何かドンッとか机を殴りつけて切れだしたよ。本当にこれで教会の司教なのかな?
「いいか。平等というのは寄付に対して平等という意味だ。より多く教会に寄付した者に対し平等ということだ!」
「あ、あの、それってつまり寄付しない人を教会は助けないということですか?」
「だとしたら随分と不平等なことだな」
アニマとガロンが不満そうに口にした。確かに今の話を聞いていると平等とはとても言えないし何より途中から神様でなくて教会に入れ替わってるし。
「揃いも揃って不愉快な連中ばかりだな。これだから落ちこぼれ共は」
不快そうにゼミラルが唇を曲げた。
「本当に変わらないんだなあんたらは――」
「お、おい今のドクトル、お前か?」
するとアズールがちょっと驚いた様子で言葉を漏らしていたよ。確かにドクトルはいつも比較的穏やかだけに教会相手だと様子が違う。
「何だ貴様その目は」
「――いえ、別に。すみません」
ジッとゼミラルを睨みつけていたドクトルだったけどゼミラルの言葉を受けて深呼吸した後一揖して席についた。
その後、教義は再開されたね。寄付については納得はいかなかったけどその後は教会の扱う魔法についての話となったんだよね。
「――傷を癒やす魔法は教会に属する者のみに与えられた特別な力である。故に我々は特別なのだ。だからこそ癒やしの力を与える者は選別する必要がある」
なんというか聖魔教会の考えにはやっぱり賛同しきれないものもあるんだけどね。どうにも寄付金が全てみたいなイメージしか持てないし。
「偉そうに言ってるけど傷を治す魔法ならマゼルにだって使えるじゃんか」
「え?」
「は?」
アズールの一言で僕もつい声が漏れちゃったよ。ゼミラルの表情も変わったし――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます