第276話 魔力0の大賢者、保険に入る?

「ムスケル先輩。保険魔法に加入するとどうなるのですか?」


 皆がどうしようか迷ってるから僕の方から聞いてみた。


「全く。貴方も説明足りなすぎよ。そういうところちゃんとしないと」

「あ、そうだよね。ごめんねいきなりで」


 しかしルル先輩に注意されてムスケル先輩が謝ってきた。どっちのムスケル先輩もルル先輩に頭が上がらないのは一緒みたいだね。


「僕の保険魔法に加入しておくともしもの怪我の時に安心なんだ。生命保険なら大きな怪我をした時には回復してくれるし対物保険なら何か物を壊してしまったり壊されたときに修繕してくれるんだ」


 ムスケル先輩が説明してくれた。そうか壊れたガラスなどが直ったのはその対物保険の効果なんだろうね。


「え? それってどこにいてもということですか?」


 これにもっとも反応したのはドクトルだった。興味津々といった様子でもあり信じられないといった様子でもある。


 実際僕にとっても驚きの魔法だよ。こういうところが魔法の凄さだよね。


「それってどんな物や怪我でもなおるのか?」

「ハハッ。流石にあらゆるというわけではないかな。対物も例えば城一つとなると厳しいかもだしね。でも一般的な損傷なら大体いけるよ。生命保険も重度な怪我限定で適用されるようになってるからね。骨が折れたとかなら治療してくれるよ」

「それでも凄いな。しかし何の条件もなく治してくれるのか?」


 アズールの疑問にムスケル先輩が答えた。そこに更にガロンの質問がとんだわけだけどね。


「流石に無条件とはいかないんだけどね。僕の保険魔法は積立式なんだ」


 そうムスケル先輩が答えた。更に皆に説明を続けてくれる。


「保険魔法が皆に適用される条件は積み立てた魔力が必要十分に溜まってることなんだよね。契約完了した日から毎日少しずつ魔力を自動で積み立てていきいざとなったときにそれを解放して怪我の治療にあてるんだ」


 魔力の積み立てか。僕の記憶にはそんな魔法はなかった。やっぱり五百年経つと魔法も変化するんだね。


「だから一度保険適用されると連続で修繕や治療は出来ないから注意は必要だけど、いざという時には便利だよ」


 ムスケル先輩の説明に皆が関心を示し始めていた。


「というわけでどうかな?」

「何か入っておく分には損はなさそうね」

「何かあった時の備えになるかも……」

「興味あるし僕は入るよ」

「あぁ俺も入ろう」

「仕方ねぇな。俺も入っておくか」

 

 結局クラスの皆は保険に加入を決めたようだね。備えあれば憂いなしとも言うものね。


「マゼルくんもどうかな?」

「え!?」


 僕にもムスケル先輩が聞いてきたよ。でも今の条件だと……。


「その、実は僕は魔力が0でして」

「そういえばそうだったわね。でも魔法が使えてるようだから魔力が無いというのもおかしな話な気がするんだけど……」


 僕が説明するとルル先輩が改めて疑問を口にした。ムスケル先輩との戦いでルル先輩にも魔法と判断されたのかな……。


「一応試してみる? この書類にサインしてもらえるといいんだけど」

「えっとこうですか?」


 先輩がせっかくこう言ってくれてるわけだし試しにサインしてみたよ。


「……保険適用外って出るね」

「あ、やっぱり……」


 魔力がない以上、保険適用はされないんだねやっぱり。


「えっと、しかも保険の必要なしとも――マゼルくんよっぽど凄いんだね」

「はい?」

「保険適用外ってそういう意味なのか……」

「当然。マゼルほどの力があれば保険などそもそも必要がない」

「保険適用外も十分ありえます!」

「さすがマゼル様。上級生の魔法をもってしても敵わないと判断してしまうのですね」

「うむ。大賢者マゼル様は一体どれほどの力を秘めているのか」

「やっぱすげぇなマゼルは」

「全てにおいて規格外ですね」

「いやいや!」


 何か勝手に拡大解釈されてる気がするけど本当ただ魔力がないってだけだからね!


 とにかく、その後ほかの皆は保険に加入したみたいだね。


「あ! そういえば――もうお昼休み終わるじゃない! 皆も早く戻りなさい。特にZクラスは校舎が遠いのだから」


 あ、そうか。確かに色々あって時間のことうっかりしてた! 


「じゃあ僕たちもう戻るね。慌ただしくてごめんね皆」


 そして時間がないから僕たちは急いで旧校舎に戻ることにしたんだ――

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