第275話 魔力0の大賢者、見てきたかのように語る

「マゼル。それに皆もここにいたんだね」


 保健室でドミルトン先輩が治療している様子を見ていたら、食堂にいた皆が保健室にやってきた。


 そうか。あれから結構経っちゃったから心配で来てくれたのかも。


 最初に僕に声を掛けてきたのはネガメだったよ。それからモブマンたちも色々話してくれる。


「どこ行ったか心配したんだぜ。途中窓ガラスが割れてたり壁が破損したりしてたしさ」


 モブマンがそう説明してくれた。ムスケル先輩との件で壊れちゃったのだね。


 どうやら僕たちを探す途中で現場に立ち寄ったらしいよ。


「あ、うん。そうだよね。でも破損したガラスとかは無事直ったんだよね」

「えっと確かに急に魔法陣が浮かんで修復されたから驚いたんだけどここからよくわかったね」


 ドクトルが不思議そうに小首を傾げた。あ、そうだ。僕は気配で何とか察したんだけど確かにここからわかるのはおかしいよね。


「――マゼルの感知魔法があればそれぐらい造作もないこと」

「マゼルならそれぐらいありえます!」

「ちゅ~♪」

「マゼル様にかかれば風の精霊より早く周囲の細かい状況をつかむことが可能でしょうからね」


 何か納得されてる!? いや確かに察知はしたんだけどね魔法じゃないけど。


「良かった無事直ったみたいね。だけどやりすぎなのは確かだから罰は受けてもらうわよ」

「うん。わかったよ。何かいつもごめんね」


 ルル先輩に注意されてムスケル先輩が謝っていた。やっぱりあの格好のときとは性格が大分違うみたいだね。


 なんとなくルル先輩の接し方も逞しい状態の時と比べると穏やかかもしれないよ。


「そもそも一体何があったんだ? こんな場所まで来て」

「怪我でもしたのマゼル?」

「マゼルが怪我なんて想像つかないわね」


 クラスの皆は僕が保健室にいたことで何があったか気にかけてくれてるようだね。


「自分に何かあったわけじゃないんだ。ただ先輩が怪我をしてしまって」

「……僕は大したことないといったんだけどね」


 皆に簡単に説明するとドミルトン先輩が困った顔で答えた。クスリー先輩の薬で怪我はもう治ってるね。


 ただルル先輩の顔が険しい。怪我の治療は勿論大事だけど、今回問題なのは怪我をした原因だ。


「今回はその程度で済んでよかったけど、万が一のこともありえるわ。魔法の練習と言っていたけど相手が誰だったか教えて欲しいのだけど」

「……本当に問題ないです。お互いわかってやったことですから」


 ルル先輩から詰め寄られるけどドミルトン先輩はやっぱり答えるつもりはないようだ。


 これにはルル先輩も弱ってるようだ。流石に当の本人が何でも無いと言っている以上無理に聞くわけにはいかないようだよ。


「心配してくれたのは嬉しいし治療してくれたのもありがたいです。では今後は気をつけるので」

「あ、ちょ――」

 

 ドミルトン先輩は立ち上がり保健室から出ようとした。僕の前まで来たのだけど。


「……僕なんかに構って君は珍しいよね。だけどその人の良さが仇となる日が来るかもしれないよ」


 笑顔でそう忠告めいたことを言われたね。


「待って君、保険に入らない?」


 そして保健室から出ようとしたドミルトン先輩をムスケル先輩が呼び止めて何かを薦めていた。


「いえ、そういうの別にいいので……」


 だけどムスケル先輩の提案を断り今度こそ保健室から出ていったしまったよ。


「万が一の為にも入っておくといいと思うんだけどなぁ。あ、そうだ君たちはどうかな?」

 

 すると今度は僕たちに保険というのを勧められたよ。ムスケル先輩の言ってる保険というのは保険魔法のことかな?


 解約が関係する魔法のようなんだけど皆も少し戸惑ってるようだね――

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