第274話 兄弟の確執
「ちょ、あんた何してるのよ!」
「アズール大丈夫!」
「流石にこれは洒落になりませんよ」
「いくら二年生といってもやって良いことと悪いことがあるだろう!」
ぐぅ、熱ぃ。そして耳に届いてきたのはクラスの皆やマゼルの友だちだというモブマンやネガメの声だった。
「フンッ。何を寝ぼけたことを。私は感謝こそされ非難される覚えはない」
兄貴の声が聞こえた。相変わらずふてぶてしい態度だ。
「アズールは火傷をしてるんですよ。謝罪の言葉があってもいいんじゃないですか!」
「それがどうした。今のまま放っておけば周囲に炎が広がっていただろう。つまり私が爆発させたからこそ大したことなく済んだのだからな」
「そんな乱暴な……」
「いや。いいんだ。みんなわりぃな。迷惑かけて」
兄貴相手に俺のために声を上げてくれたのは嬉しかった。だが、悔しいが兄貴の言ってることにも一理あった。
「相変わらず強引な手だが、確かにあのままじゃ俺の炎で余計な物まで焼いたかも知れねぇ」
「わかってるじゃないか。お前はこれまでもその厄介な魔法で迷惑を掛けてきた。いやこれからもか」
兄貴の声が胸にぐさりと突き刺さりやがる。
「ちょっと診るよ」
何も言えず立ち尽くしているとドクトルがやってきて俺の体を触り始めた。
「おま、何してるんだ。まさか、そんな趣味が!?」
「こんなときに何を言ってるんだよ。これは触診。患者さんの容態を診るときによくやっていたんだ」
触診? そんな方法があるのか。治療はポーション掛けたり魔法で治したりぐらいだと思ってたぜ。
「驚いたね。確かに火傷はしてるけど綺麗な火傷だ。これならちょっとした魔法や薬で治せる――それでも家族とは言え傷つけたのは確かだけどね」
俺の状態を確認しながらもドクトルは兄貴を睨んでいた。どうもドクトルは故意に人を傷つけた行為そのものが許せないように見える。
「大体君も言うことはないのかい?」
「……さっきも言ったが兄貴には一応は助けて貰ってんだ。おかしな話だが熱に対して熱で相殺したんだよ。勿論兄貴は俺を助けようなんて思ってないだろうがな」
ドクトルが怪訝そうに聞いてきたから答えた。兄貴は嫌いだが今の魔法のおかげで被害が出ずに済んだんだ。
「当然だ。忌々しいが一応は貴様もブレイズ家の一員だからな。余計な事をして家名を汚されても困る。本当ならこのまま学園を辞めて家を出ていって欲しいぐらいだがな」
憎々しげに兄貴が言った。あぁそうだろうな。兄貴ならそう言うさ。
「実の弟相手にそこまで言いますか?」
「そうだぜ。あんまりだろう」
ネガメとモブマンが兄貴に噛みついた。そんなことで兄貴の考えは変わらないだろうけどな。
「実の弟だからだ。貴様らにはわかるまい。いつ問題を起こすかわからない爆弾を抱えた家族の苦労などな」
吐き捨てるように兄貴が言った。そして俺に向けて指を突きつけて口を開く。
「アズール。用件は一つだ。貴様は決してアズール家を語るな。私にも近づくなよ。貴様のような無能と兄弟などと思われたくはないからな」
そして言いたいことだけを言って兄貴は俺の前から姿を消した。
チッ、近づくなと言うならわざわざこなきゃいいだろうが。
「それで怪我は大丈夫なのか?」
「問題ねぇよ。この体質のおかげでこう見えて火や熱にはわりと耐性があるんだ」
ガロンに聞かれたから答えた。そう、ちいせぇ頃から勝手に火がつく厄介な代物だったからなこれは。
「言われてみれば前に燃えたときも大したことなかったっけ」
「でもあんた、いつも熱い熱い泣き叫んで暴れてるじゃない」
「チッ、泣いてはいねぇだろうが。でもな、そればっかりはどうしても慣れねぇんだよ。内側から燃えるような、まるで炎に喰われてるような感覚でな――」
そう、だからこそ肉体へのダメージが大したことなくても精神的に抗えない。本当に嫌になるぜ。
「とは言え火傷はしているしね。学園には保健室があると聞いたし行ってみようよ」
「別にいいって。それにマゼルを探すのが先だろう?」
「ガウガウ!」
俺の火傷なんて放っときゃ治る。そう思ってたらガロンが吠え始めた。方向を示しているようだな。
「こっちからマゼルの匂いがしてるみたい」
「そっちは、ちょうどいい保健室の方だよ。アズールの怪我も治療できる」
マジか。そんな偶然もあったもんだな。ま、ついでならいいか。
そういうわけで俺たちはガロンが進む方へと移動を開始した。
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