第271話 魔力0の大賢者、保健室に入る

「瞬間移動――空間魔法という奴か。たく、やっぱりとんでもねぇぜ」

「貴方、魔力0、なのよね?」

「あはは――」


 ムスケル先輩に肩をバンバンと叩かれルル先輩からは不思議そうにされた。


 本当は魔法じゃなくてドミルトン先輩を連れてただ急いで戻ってきただけなんだけどね。


「――マゼルはあのゼロの大賢者の再来。万を優に超える無限の魔法の使い手。魔力の多寡など大賢者たるマゼルの前には関係なくその奇跡の数々は――」

「アイラ長い長い!」


 ルルの疑問に答えようとしたアイラだけど、大仰な表現が多いし本当そんな大したものじゃないからね!


「しかし、そのなんだ。これは大丈夫な物なのか?」


 ふとクイスが周囲を見回しながら疑問を呈した。そうなんだよね……ルル先輩も言っていたけど窓ガラスは割れてるしさっきまでいた廊下の天井や壁も破損していた。


「勿論普通に考えれば許されない行為よ。ムスケルもわかってるわね?」

「うぐっ、むぅ……」


 ムスケル先輩がなんとも言えない顔をしていたけど、ルル先輩が睨みを聞かせると黙ってしまった。


「ふぅ。とにかく保健室に向かうわよ。ムスケルもしっかりそこで着替えてね」

「な! ぬ、脱げというのかこれを!」

「脱ぐのよ。そもそも授業始まったら着替える必要あるでしょう」


 ルル先輩に叱咤されてムスケル先輩もタジタジな様子だ。幼なじみと言っていたけどルル先輩には弱いみたいだね。


 その後はルル先輩の案内で改めて保健室に向かった。下にいたから階段で上がる必要はあったけどそんなに離れてはいなかったよ。


「おやおやこれは随分と沢山きたんだねぇ」


 保健室では白衣を着た一人の少女が出迎えてくれたよ。


「はじめましてだね。私は保健体育副委員長のクスリー・ドラクウルだよ。宜しくね♪」


 ハミングするような明るい口調で先輩が自己紹介してくれた。


 淡い青髪の先輩で髪の両端を飾り付きの紐で纏めていて飛び出た髪がぴょこぴょこと小動物の耳みたいに上下していた。


 なんとも愛嬌のある先輩だね。


「ではドミルトンの治療をお願いします」

「オッケー。ところで君、新薬とかに興味ある?」

「はい?」


 クスリー先輩に聞かれてドミルトン先輩が戸惑っていた。いきなり新薬を試すということなのかな?


 何か色々と心配な気もしないでもないけどルル先輩によるとクスリー先輩は調合魔法の使い手でかなりの腕前らしいよ。


「ほらあんたはこっち」

「くっ、どうしてもこれを脱がないと駄目なのか!」

「駄目よ!」


 そしてムスケル先輩はルル先輩に引っ張られて隣に繋がってる扉に押し込まれていた。その先で着替えが出来るようになってるみたいだね。


「時間がないんだから早くね」


 腰に両手を当ててルル先輩が扉越しにムスケル先輩を促した。でも、どうしてそんなに着替えを急がせてるんだろう?


 やっぱり今の格好のままだと校則的にまずいとかなのかな?


 そんなことを思っていると、ムスケル先輩が押し込まれた部屋の扉がガチャっと開き中から誰かが姿を見せたのだけど――


「やぁルルちゃん。何かごめんねぇ迷惑を掛けたみたいで」

「えっと……」


 扉から出てきたのは随分と小柄な男の子だった。えっと子ども? 学園の生徒にしては見た目にも幼いのだけど、でも着ているのは他の生徒と同じ制服だ。


「マゼルくんもごめんね~何かあらっぽいことしちゃったんだもんね僕」

「はい?」


 そしてトコトコと近づいてきたその子から何故か謝罪されてしまった。これってどういう?

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