第272話 魔力0の大賢者、その変化に驚く

「その、貴方は?」


 どうやら僕のことは知ってるようだけど初対面な相手だから念のため確認しておいた。


「あ、そうか。この姿だとわからないかもね。僕はムスケル・ケーニッヒだよ~」

「え? ムスケル先輩!?」


 驚いた。なにせさっきまでの姿からは想像もつかない程見た目が変わっているし――


「……驚いた。一体どうなってるの?」

「こ、こんなのありえる、いえありえません!」

「人間も進化するの~?」

「そのような話は聞いたことがありませんが知ってますかクイス?」

「申し訳ありません姫様。勉強不足で承知しておりませんでした」


 女の子たちもこの変化には驚いているようだね。ビロスについては進化の一種だと思ってるようだし。


「ふぅ。戸惑うのも無理ないわね。念のため言っておくと私が一番良く知っているのは今の彼よ。だけどいつからかあの妙な格好をするようになって姿も変貌するようになったのよ」


 ため息まじりにルル先輩が答えた。そうかそれで制服を脱ぐように言っていたのかな。でもどうしてこの姿になってもらったのか、恐らく意味があるんだろうね。


「とにかくその姿に戻ったなら魔法を行使して貰える? 変貌した貴方が破壊した窓とかそのままってわけにいかないもの」

「あ、そうだったね。何かごめんねルルちゃん」


 朗らかな笑みでムスケル先輩が答えた。それにしても口調といい大分違いがあるね。


「ルルちゃん……」

「ぐっ!」

「あはは、今のムスケルくんにとってはルルちゃんはルルちゃんだもんねぇ」


 ちゃん付けで呼ばれるルル先輩にアイラが注目しクスリー先輩はドミルトン先輩に薬を塗りながら笑っていたよ。


「じゃあ行くね。我は第三条四項……」


 ムスケル先輩が詠唱を口にした。変わった詠唱で何か規則に関する要件をつらつらと並べていく。


「以上の契約に則り魔法を行使する――保険魔法・インシュランスカバレッジ」


 ムスケル先輩が魔法を行使すると魔法陣が浮かび上がり先輩の手に光り輝く書物が現出しパラパラと捲られていった。


――内容確認、保険適用致シマス。


 これはムスケル先輩の声ではないね。魔法的に生み出された声だろうけど、漢気魔法とは明らかに異なる魔法だね。


「うん。これでいいね」


 そしてスッキリした顔でムスケル先輩が言った。ルル先輩も安堵の表情を浮かべている。

 

 でもこの魔法で何が起きるんだろう。話を聞いてると壊れた窓ガラスとかに関係あるようだけど、ちょっと探ってみようかな――






◇◆◇

side アズール


「たく。結局マゼルたち戻ってこなかったな」

「そろそろ昼休みも終わっちゃうよねぇ」


 食事を終えた俺たちは食堂を出てマゼルを探していた。トイレに行くって話だったが全く戻ってこなかったからな。


 ドクトルも俺の話に相槌を打ちつつ苦笑してる。


 マゼルだけじゃないしな。マゼルと親しいアイラとかビロスそれにエルフの王女とかとにかく皆追いかけていったけど誰も戻ってこなかった。


「マゼルの奴またトラブルに巻き込まれてるんかな?」

「ありえるね。そうでないと勝手に消えたりしないし」


 モブマンとネガメが言った。この二人もマゼルと幼なじみなんだそうだ。


 だからよく知ってるのかもだがこの言い方だとよくトラブルに合うみたいな雰囲気だな。いや、まぁそれは俺でもなんとなくわかるな……。


「う~ん。ま、私はお腹が一杯で満足だけどね」

「よく食べてたもんねリミット」


 幸せそうな顔をしてるリミットにメドーサも呆れ顔だな。


「でももし何かあったなら……心配です」

「うむ。とにかく探さないとな――」


 アニマとガロンも心配していた。時間的にもヤバいしな……。


「ガルッ」

「あ、マゼルの匂いはこっちから感じるみたい」


 アニマが指さした方に向かう。流石シグルは嗅覚が優れているな。


「おいおい何だこれ?」


 シグルが足を止めた場所では窓ガラスが割れ天井や床にも罅が入っていた。


「マゼルここにいたのか」

「シグルによるとそうみたいです」

「ガルッ」

「君たち今マゼルと言ったかい?」


 俺たちが話していると銀髪の男が駆け寄ってきた。女受けしそうな整った顔立ちの男だな。


「あんたは?」

「あぁごめんね。僕はアラード・サイレス。二年生で風紀委員の副委員長をしているんだ」


 風紀委員――確か以前眼鏡の風紀委員長と会ったな。副ということは立場上あの女のすぐ下ってことか。


「その、マゼルが何かあったんですか?」

「あぁ。ここで話を聞いたらZクラスのマゼルが関係していると聞いてね」

「……チッ、またZクラスかよ」


 ネガメの質問に答えるアラードについ悪態をついてしまったぜ。本校者の連中はマゼルの知り合いを除けば俺たちを見下すような連中ばかりか。


「おっと勘違いしないでね。僕は別にZクラスだからって決めつけるつもりはないよ。それにこの場にはどうやらルル先輩もいたようで――」


――保険適用されました。契約に則り破損された器物を修復致します。


 その時どこからともなく声が聞こえ多数の魔法陣が浮かび上がった。


 なんだこれ? しかも途端に壊れた窓ガラスや床、壁に到るまで修復されていく――


あとがき

「『標識召喚』など使い物にならん!と国を追われ隣国に渡ったら標識の力に感動され召喚王と称えられるまでになりました~敵対国が里の召喚師を引き連れ侵略に来ましたがお前たちが馬鹿にした標識の力で圧倒します~」という新作を公開しました。チート級の標識で無双!宜しければちらりとでも覗きに来て頂けると嬉しく思います!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る