第270話 魔力0の大賢者、先輩に謝罪される?
「全く情けないぜ。俺としたことが白綿ネズミに気づかず危うく関係ない生き物を巻き込むところだったとはな」
背中を見せたままムスケル先輩が反省と後悔を口にした。確かに危なくファンファンが巻き込まれそうだったからね。
勿論先輩には悪気がなかったと思う。とにかくファンファンも無事だったしね。今は僕の肩に乗って僕の頬をスリスリしている。
「――ふっ。どうやら俺の目が節穴だったようだな。体を張って動物を守りそこまで懐かれているお前が軟派なわけねぇ。いやそれどころか一年でこの俺と張り合えるんだからな」
そういった後、なんとムスケル先輩が僕を振り返った。彫りの深い顔でどことなく迫力がある。
「とんでもねぇ真似しちまった。本当に済まねぇ!」
だけどそんなムスケル先輩が大仰に頭を下げて謝罪してきたよ。凄く豪快な先輩だけど根はしっかりした先輩なんだろうね。
「気にしないでください。ちょっとびっくりはしたけどわかってもらえればそれで――」
「ムスケルーーーーーーーー!」
僕としては事を荒立てるつもりもなかったから、先輩の気持ちを受け取って終わりにしようかと思ったのだけど――叫び声が聞こえてきたから見ると風紀委員長のルル先輩が凄い剣幕で近づいてきていた。
歩幅も大きくズンズンという音が聞こえてきそうな勢いでやってくる。これ、一悶着あるかも――
「ルルか。全く今年入ってきた新入生には驚かされるぜ。このマゼルとんでもない逸材かも――」
「このッ、バカァアアアァアアアアアア!」
「ぐぼらぁ!?」
ムスケル先輩が話している途中でルル先輩が駆け出しかと思えば跳躍して先輩にドロップキックをかましてしまったよ!?
見事に顔面に両足がめり込んであの先輩が倒れた。ルル先輩凄すぎません!?
「お、おまえ何を」
「何をじゃないでしょうが! あんた自分で何したのかわかってるでしょう? 勝手な勘違いで後輩に手を上げたどころか校舎の窓から壁まであっちこっち破損させておいて!」
「ぐっ!?」
ムスケル先輩の胸ぐらを掴んでルル先輩が凄んだ。さ、流石に風紀委員の前でここまでやったのは問題あったのかな?
ムスケル先輩も喉を詰まらせて目を逸らした。凄く罰が悪そうだよ。
「その、幸い僕もファンファンもなんともないので」
「そういう問題じゃないのよ。たくこのバカは
ルル先輩がため息まじりに言った。なんかちょっと気になる部分もあった気がするけど――
「ルル先輩とムスケル先輩は随分と仲がいいのですね」
「な! ば、ばっきゃろう! 俺たちはそんな軟派な関係じゃねぇ!」
「へ?」
見たまんまの感想を言っただけなんだけどムスケル先輩が帽子で顔を隠して声を張り上げた。ちょっと顔が赤いような?
「彼とは幼なじみなのよ。こんな小さいときから知ってるの。もっとも今も……ま、それはいいけど」
「マゼル!」
「マゼル~」
「マゼル様」
「マゼル、ファンファン~!」
僕たちが話していると上にいた皆も駆けつけてきてくれたよ。
アリエルはファンファンの名前も呼んでるね。近くまできてすぐにファンファンがアリエルの胸に飛び込んだよ。
「良かったファンファン無事で」
「ちゅ~♪」
「ほらムスケルもちゃんと謝りなさい」
「う、確かに……あんたのペットだったんだな。本当に済まなかった」
「無事なら――許すこともありえるわ!」
「ちゅ~」
ムスケル先輩の謝罪を受け入れてアリエルもファンファンも許したようだね。
うん、それはよかったんだけど――
「あれ? ドミルトン先輩は?」
女の子たちは来てくれたけど肝心のドミルトン先輩が見あたらない。
「しまった……一緒に来てるところ見てない」
「どこいったんだろうねぇ?」
「ふぅ、参ったわね。離れちゃうなんて」
「ちょっと待っててください」
どうやらドミルトン先輩を見失ってしまったようだけど――気配から察して。
「よっと」
「わわっ! ここはいったい?」
「駄目ですよ先輩。怪我してるのですから無理しちゃ」
ひとっ走りドミルトン先輩の場所まで移動して肩に乗せて戻ったんだ。
先輩は困惑してるみたいだけど元から保健室までは行く予定だったわけだしね――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます