第268話 魔力0の大賢者、先輩を怒らせる?
「ムスケルいい加減にして」
「うるせぇ黙ってろ! これは漢と漢の問題だ!」
ルル先輩が声を荒らげてムスケル先輩に訴えたけど、それ以上の大声で怒鳴り返されていた。
いや、そもそも僕にはなぜ先輩を怒らせたのかさっぱりなのだけど――
それにしても大きい人だな。身長は余裕で二メートルを越えてるし肩幅も広い。
そして随分と特徴的な格好をしていた。この先輩本校者で見られるような制服とは明らかに別物な服装をしている。
妙に丈が長く黒い。かなり厚手で頑丈そうだ。前はボタンで止めるタイプのようだけどそれも止めず開けた部分から鍛え上げられた上半身が顕になっていた。
あとお腹あたりに布を巻いてるね。怪我をしているようにも見えないし何の意味があるかはわからないけど……。
背中しか見えないけど頭にはつば付きの帽子を被っていてこれも他の生徒と異なる点だね。
「その、僕も何故貴方が怒っているかわからないのですが……」
「わからない? それはお前が軟派物だからだーーーーーーーー!」
ムスケル先輩が突然激昂して衝撃が広がった。何か突風も起きて皆からもちょっとした悲鳴が上がる。
「一年坊主のくせに昼間から女を侍らかして調子に乗るその精神が気に入らねぇ。俺がその軟弱な精神を叩き直してやる!」
えぇ! そういうことなの? だとしたら凄い誤解だよ! 僕たちそういうのじゃないしそもそもドミルトン先輩の怪我を治すために保健室に向かうところだったわけだし。
「えっと、とにかく勘違いです。それに僕たちはただ保健室に向かおうと思っていただけなんです」
「保健室だと? だったら尚更だ。お前みたいな軟派な一年を保健室に近づけるわけにはいかねぇな」
はい? 何でそうなるのか……確かに先輩だけど――
「いや、あの確かに先輩かも知れませんが保健室に行かせない権利なんて……」
「彼なのよ」
気持ちを吐露するとルル先輩が言葉を漏らした。横目で確認すると額を押さえてルル先輩が言葉を続ける。
「さっき話しかけた保健体育委員長が彼、ムスケル・ケーニッヒなのよ」
「えぇッ!?」
この先輩が? だから保健室にいかせないって言ってるのか。
「そういうことだ。ここから先に進みたいならその軟弱な精神を直すことだな」
「……いい加減にする。マゼルはあの大賢者」
「部外者は黙ってろーーーーーーーー!」
アイラが割って入ると背中を見せたままムスケル先輩が叫んだ。空気がビリビリと振動する程の怒声。
アイラも喋ってる途中で完全に遮られた。声だけの影響じゃない。背中から感じられる圧が他の皆に影響してるんだろうね。
「――漢は背中で語るもの……」
背中を見せたまま先輩が言葉を続けた。これってさっきも言っていたような――
「背中に漢と刻みゃぁ、無様な姿は晒せねぇ――それが漢の心意気――漢気魔法・漢の背中!」
魔法? ということは今のはもしかして詠唱だったのか。だとして漢気魔法って聞いたことがない魔法だけど――
「フンッ! フンッ! フンッ!」
今度は背中を見せたまま先輩が声を上げた。そのたびに天井や壁に罅が入っていく。
「……背中から攻撃してる?」
「あ、ありえないです!」
「ちゅ~!?」
アイラとアリエルが驚いていた。だけどこれは背中から攻撃してるんじゃない。
ただそう見えてるだけ。実際は漢気魔法で肉体を強化した先輩が背中を見せたまま最小限の動きで拳を撃ってきてるんだ。
「ですが見てください。マゼル様には全く当たってません」
「確かに。私たちも守ってみせたリフレクトの魔法か――」
「凄いマゼル~大好き~」
「……へぇ」
「姫様落ち着いてください!」
イスナたちの言うように先輩の拳は僕には当たっていない。ただ魔法じゃなくて手で弾いているだけなんだけどね。
「――軟派な割には少しはやるようだな」
拳が止んだ。だけどまた空気が変わっていく――
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