第267話 魔力0の大賢者、先輩に戸惑う

「――ということがありまして」

 

 僕は風紀委員のルル先輩にここで起きていたことを説明した。ルル先輩は真剣に聞いてくれているよ。


「……そう二年生が。ドミルトン。君に暴行を加えた二年生について教えてくれる?」


「…………」


 ルル先輩がドミルトン先輩に問いかける。だけどドミルトン先輩はすぐに答えようとしなかった。


「ドミルトン。どうしたの?」

「いえ、その……それはマゼルくんの勘違いですよ。僕たちは魔法の練習をしていてそれが少し過激になっただけで、マゼルくんにはきっと僕が一方的にやられれているように見えてしまったんだね」

「え?」


 どことなく無理やり作ったような笑みを浮かべながらドミルトン先輩が答えた。


 そんな……あれはどうみても練習なんてものじゃなかった。


「先輩、僕から見て一方的な物にしか……」

「ははは、ごめんね勘違いさせて」


 僕に向けて眉を落として謝ってきたけど、先輩が謝る必要なんて無いはずだ。


「そういうわけだから事を荒立てないで貰えると助かります」

「……いくら練習と言っても相手を怪我させる程の魔法を無許可で行使するのは黙認出来ません。相手の名前を教えてもらえる?」

「それも僕が承知した上でやったことです。それが問題だというなら罰は僕が受けるよ」

「そんな、どうしてそこまで――」


 そう言いかけた僕をドミルトン先輩が見た。どこか影の感じられる瞳だった。


「とにかくそういうことなので」

「……待ちなさい。どちらにしても怪我をしてるのは確かです。保健室で手当してもらいましょう」


 保健室……そういうところがあるんだね。僕の力を使うか迷ったけど他に治療出来るところがあるなら素直にそこを利用した方がいいかもね。


「この程度大したことないですよ」

「ダメです。怪我をしてる生徒をそのままになんて風紀委員長として見過ごせません」


 その場から何とか離れようとしていたドミルトン先輩の腕をルル先輩が掴んだ。


 確かに怪我してるし放っておけないのはわかるね。ただルル先輩には他に目的がありそう。


 やっぱりドミルトン先輩の話に納得してないんだろうね。保健室に行く間に手がかりをつかむつもりなのかも。


「とにかくついてきてください」

「は、はぁ……」


 有無を言わせないルル先輩の迫力にドミルトン先輩も従うしかないといったところかな。


 というわけで男子トイレを出たんだけど――


「……マゼルどうして他の女の子とトイレから?」

「あ……」


 トイレから出たところでばったりとアイラたちと再会した。いやよりによって!


「お、男の子のお手洗いを男女で! あ、あ、あ、あ、ありえます、いえ、ありえません! ありえません!」

「ちゅ~……」

「ビロスもマゼルと一緒に入る~」

「うふふ、マゼル様と見知らぬ女性がお手洗いで、うふふふ、一体何をされてたのですかぁ~?」

「……残念だがマゼルよ。これは私にも擁護出来ん。覚悟を決めてくれ」


 絶対何か勘違いされてるよ! 特にイスナが怖い! クイスも不穏な事を言ってるし!


「……全く君の周りはいつも騒がしいな」

「あはは……」


 ため息まじりにルル先輩が言った。その後は今の状況を皆に説明してくれたよ。


「――そうだったの。疑ってごめんなさい」

「ありえない勘違いなの……」

「ちゅ~……」

「そうとはつゆ知らず、うぅ私としたことが……」

「騎士としてあるまじき勘違いを、申し訳ない!」」

「いや別に気にしてないから」


 皆が謝罪してくれたけど本当そんな謝るようなことじゃないからね。


 その後、皆からも話を聞いたけど僕が遅いからって心配で来てくれたみたい。


「他の皆は?」

「食堂で待ってくれている。全員で来るわけにもいかないから」


 アイラが答えてくれた。入れ違いになった場合も考えたようだね。


 そして皆も保健室に付いてきてくれることになった。


「ちょっと多い気もするが……ふぅ、まぁいい。ところで――」


 その後はドミルトン先輩にルル先輩が色々と聞いていたけど肝心のドミルトン先輩は話をはぐらかしたりで中々本心を話してくれないみたいだ。


 これには僕も頭を悩ますところなんだけどね。


「ところで保健室には回復魔法を扱える方が?」

「いや、そこには各種薬が揃えてあるのだ。副委員長が優秀な調合師でもあってね」


 そうルル先輩が教えてくれた。薬が常備されてるならある程度怪我をしても安心だろうね。


「副委員長と言われましたが委員長もいるのですよね?」

「あ、あぁ。確かにいるのだが……」


 イスナがルル先輩に問いかけた。確かにそうだろうけど、委員長の話しになった途端ルル先輩が不安そうな表情を見せたような――


「漢とは背中で語るもの」

「ん?」


 何か突然そんな声が僕たちの耳に届いた。見ると廊下の先に後ろ姿の男の姿が――


 でもなんて、背中を向けてるんだろう?


「……お前、一年だな?」

「あぁ――」


 すると背中を向けた彼が問いかけてきた。何か僕に向けて言われてる気がするよ。そしてルル先輩が額を押さえている。


「えっと確かに僕は一年ですが……」

「なってねえ」

「へ?」


 僕が答えるも相手は納得してないみたいだ。


「――一年坊主の癖に周りを女で固める軽薄さ。さてはお前、軟派だな?」

「待った待った! ムスケル貴方勘違いしてるわよ」

「ルルは黙ってろ。これは漢と漢の問題だ! お前、名前は何ていう?」

「えっとマゼル・ローランです」

「そうかマゼル、俺は決して軟派な野郎は許さない。絶対にだ!」


 えっと、何かすごく怒っているようだけど、軟派って、えぇ――

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