第266話 魔力0の大賢者、二年生に顔を覚えられる
「どうなってんだよ……二年Bクラスのクラークさんがこんな無能に……」
「本当なのか? 演技なら冗談やめてくださいよ」
クラークの仲間たちが信じられないような顔で口にしていた。
二年生のBクラスか。この様子だと学年ごとにランク分けがされてるんだろうね。
「う、うるせぇ! ぐ、テメェらもボーッと見てないでさっさとこいつを何とかしろ!」
壁をつかって立ち上がったクラークが仲間たちに命じる。何となくそんな気はしていたけど立場はクラークの方が上なんだろうね。
「赤熱の礫、直撃の――」
「石の制裁、粉砕の――」
「空色の旋風、唸れ――」
クラークに言われて仲間たちが詠唱を始めた。それぞれ火、土、風か――
「お、おい大変だ! 風紀委員が来てるぞ! 誰かがチクりやがった!」
仲間たちの詠唱が止まった。別な男子生徒がトイレに飛び込んできて叫んだからだ。
どうやら彼もクラークの仲間らしいね。
「チッ、テメェ命拾いしたな。だが顔と名前は覚えたからな!」
するとそんな捨て台詞を吐いてクラークたちがトイレから出ていった。
手洗いに来ただけのつもりがとんでもない現場に遭遇してしまったな。
あっと、それよりもあいつらにやられていた彼だ。そう思って見ると立ち上がり彼もトイレから出ていこうとしていた。
「待って待って。怪我してるんだし無理しちゃ駄目だよ」
「このぐらい、大丈夫。はは、僕慣れてるから」
慣れてるからって……普段からこんな酷いことをされているってことだよね。
「そんなのに慣れちゃ駄目だよ。どうにかしないと」
「――はは、随分とお人好しな後輩もいたものだね」
僕が彼に訴えると眼鏡を直しながらにこやかに答えた。そうか彼も二年生で先輩に当たるんだね。
でもお人好しと言われても僕はただ怪我してる彼を放っておけないだけなんだけど。
う~ん僕が回復するという手もあるけど正直黙ってやるのは悪い気がするんだよね――汗だし。
「ちょっと失礼しますよ。風紀委員です大人しくしてください!」
するとトイレに大きな声が鳴り響いた。でもこの声って女の子のだよね。
「うん? 確か君は――」
「えっと、はは――」
僕たちの前に姿を見せたのは既に何度かあったことのある風紀委員長のルル先輩だ。
「……男子トイレで誰かが暴行を受けてると聞いて駆けつけたのですが」
ルル先輩は男子トイレであることなど気にもとめてないようだ。仕事と割り切ってるのかもね。
ただ――その眼鏡の奥の瞳は怪我をした先輩に向けられていた。その後すぐに僕の方に視線が移る。
「まさか、君が彼を?」
「いや違います!」
状況的に僕がやったみたいに思われてしまったよ! それは流石に困るよ。
「彼、マゼルくんだったかな? うん、この子は関係ないよ。僕がドジで転んだだけだから」
「それも違いますよね?」
どうやら先輩は僕を心配してそう説明したのかもだけど、怪我の原因はクラークたちの暴力によるものだ。
「私から見てもわかる。貴方、確かBクラスのドミルトンよね? それは転んで出来たような怪我じゃないわ。マゼル。貴方何か知ってるの?」
「それは――」
ドミルトン先輩が自ら語らないのは気になるところだけどやっぱり黙っておくわけにもいかないので。僕はここで見たままを説明することにしたんだ――
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