第263話 魔力0の大賢者、嫌がらせを受ける

「……容器が割れてたんだね」


 手についたのはソースだろうね。それが手についたんだ。


「ご、ごめんなさい! まさかそんな破損品を置いていたなんて!」

「いやいや! ハニーは気にしないで!」


 僕の手についたソースを見てハニーがペコペコ謝りだした。今はこの食堂で働いているわけで、だから責任を感じたのかもしれないけど、どうみても店側に非はないんだよね。


「あぁ、あいつあんな可愛い店員に謝らせて可哀想に」

「これだからZクラスは」

「普通は魔法で何とかするわよねぇ」

 

 僕に容器を投げつけてきた連中がくすくす笑いながら愉快そうに言った。これを投げつけてきたのはそっちだろうに。


「……お前たちどういうつもりだ」

「ビロス怒った!」

「お返しもありえます!」

「ちゅ~!」

「マゼル様にこんなウフフ、これはお仕置きが必要なようね」

「落ち着いてください姫様!」


 皆が立ち上がり、な、なんだか凄い迫力で僕に容器を投げてきた連中を睨んでいた。


 イスナに関しては怒りの形相をした炎の精霊王が浮かび上がっているし、クイスが必死に止めようとしている。


「な、何だよ! 俺たちはそっちにソースが足りないと思って気を利かしただけだろ!」

「それで投げるなんてありえないだろう」

「普通に私に来てくれればいいだけだしね」


 彼らの言い分にはアズールとドクトルも否定的だった。確かに無理があるとは思う。


「ソースを無駄にした罪、爆散して詫びろ――怒りの鼓動、炎の乱心、爆炎の……」

「ちょっとリミットも落ち着きなさいって!」


 メドーサがリミットの口をふさいでいた。本当食べ物のことになると容赦ないねリミット……。


「あんなの魔法の基礎が出来てればなんとでもなったわよ」

「そうそう。魔法も使わずただ手でキャッチだけなんて魔法学園の生徒としてどうかと思うよ」


 どうやら皆の怒ってる様子を見てこのままじゃまずいと思ったらしいね。投げた理由を説明し始めた上で僕に非があるといいたいようだね。


「――魔法学園だからって何でもかんでも魔法で済ますわけじゃないと思います」

「全くだな。だいたい全員が全員対応できる魔法を持ってるわけじゃないだろう」


 アニマとガロンは彼らの意見に否定的だ。そもそも自分たちの行為を正当化させるために理由をつけてるって感じもあるね。


 あとになって慌てるぐらいならやらなきゃいいのにと思うんだけど……。


「皆、もういいよ。これぐらいなら――」

「へぇ~」


 こんなことで皆に時間を取らせるのも悪いと思ったから話を収めようと思ったけど、そこに聞き覚えのある声。


 見るとソースの容器を掴んだアダムの姿。ソースが手につかないよう底を持ってるね。


「この容器の傷、どう見ても故意につけられてる気がするけどね」

「なんだよお前突然!」

「ま、待ってあのバッジ! Sクラスの」

「え? え、Sクラスだって――」


 そう。アダムはSクラスに入ったんだったね。それを見て向こうも随分とビクビクしてるね。


「で、君たちがこれをしたんじゃないの?」

「し、知らないよ。きっと誰かがイタズラしたんだろう」

「イタズラねぇ……傷は新しいと思うけど……ま、いっか。ホイッ」


 納得したようにアダムが頷き、直後笑顔で容器を彼らに投げつけた。


「返すよ。魔法があればなんとかなるんだよね?」


 高く放り投げられた容器を見ながらアダムが言った。僕がされたことの意趣返しのつもりなのかもしれない。


「こんなの余裕よ! やわらかい風――」

「ボンッ!」


 女の子が急いで詠唱を始めたけど、アダムが戯けた様子で口にし、途端に容器が破裂してソースが彼らに降り注いだ。


「キャッ! そ、ソースが」

「ひぃ制服が染みに~」

「な、なんてことするんだよお前!」


 アダムに彼らが文句を言ってきた。今のはアダムの魔法なんだろうけど、自分たちのやったことは棚に上げてやられると文句を言うんだね。


「あれぇ~おかしいな? 魔法の基礎ができていれば――なんとかなるんだよね?」


 アダムがどこか影の感じられる笑顔を振りまきながら問いかけた。


「ひ、ひぃい」

「失礼しました~」

「ちょ、待ってよ~!」


 するとソースまみれになったまま顔を青くさせて食堂から逃げ去ってしまったよ――

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