第264話 魔力0の大賢者、の汚れた手

「あらら行っちゃったね。う~んもう少し歯ごたえあると思ったのに」

「ははっ――」


 アダムがつまらなさそうに言っていたけど彼らからしたらさんざんだろうね。


「……おかげで少しスッとした」

「スッキリしたのはありえます!」

「ちゅ~」

「私としてはまだお仕置きが足りない気がしますが――」

「姫様本当に落ち着いてください」


 皆も溜飲が下がったといった様子だ。イスナだけはまた納得してないようだけどクイスが気持ちを落ち着かせようと必死だ。


 ただ――逃げた彼らはともかく結局ソースが食堂のテーブルや床を汚しちゃったね。これは放っておけない。


「汚しちゃったね。これは僕の責任でもあるし綺麗にするよ」

「そんなことないです! 私がやっておきますから大賢者様はお気になさらず」

「いや、ごめんね。やったのは僕だしこっちでなんとかするよ」


 ハニーに謝りつつ何とかしようと考えているとアダムも頬を掻きながら謝っていた。


「それなら私めにおまかせを。精霊の力を使えばこのぐらいはお手の物です。それにマゼル様は先ず手の汚れを――」

 

 イスナに言われてハッとなった。そういえば手がソースまみれだったよ。


「……私たちも手伝うからマゼルは手を洗ってくる」

「それがいい。こっちはやっておく」

「ビロスもピカピカにする~!」


 アイラに洗面所に行くことを勧められた。ガロンとビロスや皆もこの場はなんとかしてくれると言っている。


 なにか申し訳ない気がするけど確かに僕も手がこのままじゃ逆に汚しちゃうしね。


「うん。じゃあ先ず手洗いに行ってくるよ。なるべく早く戻って手伝うからね」


 皆の厚意に甘えることにして食堂から手洗いに向かった。場所はハニーが教えてくれたよ。


 そんなには離れていないみたいだ。


「あったこれだ」


 トイレは男女で分かれていてそれぞれマークと色でわかるようになっている。


 僕は青い方の洗面所に入った。入ってすぐに手洗い場があるけど凄いな触れるだけで水が出る仕組みらしいけど――


「あ――」


 この蛇口は魔力を感知して水が出る方式らしい。つまり魔力のない僕だと水が出ない――参ったな。


 汚れてない方の手で蛇口に触れてみたけどそうか中で蓋みたいのがあってその開閉で水が出る仕組みだね。


 この辺は体内の電気を上手く使って調べることが出来た。それがわかれば後は気の応用で蓋を開いてと――


「よし。水が出てきた」


 ちょっと手間だけど何とかなったね。ちょっと物理的で強引ではあったけどね。


 勿論手を洗った後はしっかり中を閉じて水も止めた。


「これでよし――」

「おい、お前へらへらしてないでもう少し痛いなら痛いなりの反応しろよ」

「えへへ、ごめんね」

「たく気持ちわりいなこいつは」

「ふん。だったら次は嫌でも痛がる姿を見てやるよ」


 うん? 水を止めると奥から何人かの生徒の声が聞こえてきた。この洗面所は一番手前に手洗い場があって奥で用を済ませる間取りだ。


 ここからだと壁があって奥の様子は見えないけどちょっと奥にいけばわかる。

 

 壁からひょこっと顔をのぞかせてみたけど、そこでは奥の壁際に追い詰めた少年を囲む四人の男子生徒の姿があった。


 囲まれてるのは眼鏡を掛けた少年だった。顔にはまだ新しい痣が出来ていた。


「今度は俺のキツイのをお見舞いしてやるよ。いいか? これは魔法の練習だ。お前はその為の生き人形なんだからな。特別に俺らがお前を練習台として面倒みてやってんだから感謝しろよ――」


 囲んでる中の一人が言い聞かすように口にすると他の生徒が少年を羽交い締めにしてしまった。更に背中が目えてる一人が詠唱を口にし拳を振り上げる。


「――変化の拳、鉄拳の制裁、鉄拳魔法――ナックルサンクション!」


 拳が鉄に変化し少年に振り下ろされる。だけど、回り込んで僕がその鉄拳を掴んだ。


「は? なんだ! 誰だお前!」


 向こうからは背中しか見えてなかったけど回り込むと結構厳つい顔をしてるね。


 僕が止めたことで不可解って顔をしてるけど、まさか学園でこんなことが起きてるなんてね――流石に放ってはおけないしどうしたものかな……。

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