第257話 魔力0の大賢者、小テストを受ける

 いよいよ小テスト当日だ。皆で毎日頑張って勉強したけど、本番となると空気が違うね。


 皆も緊張してる様子だ。


「へ、へへ、テストなんて大したことないぜ。今の俺は無敵だ」


 アズールも後半では問題も自力でかなり解けていた。テスト範囲も押さえてるし自信を持っていいと思う。声がちょっと上擦ってるけどね。


「わ、私だって全て頭に入ってるわよ。脳を石化してね」

「脳を石化したら危険だよ!?」


 メドーサが緑色の髪を掻き上げながら言った。緊張からか声が震えてるけどね。


 彼女は最初は集中力が長く続かなかったけど、皆と勉強を続けるにつれて集中できる時間が伸びていったよ。


 ただドクトルが突っ込んでいたけど脳を石化するのは確かにおすすめ出来ないね。僕も脳ごと石化した状態を気合で解くことはあっても自分から石化はしないからね。


 そんな話をしながらもギリギリまでノートの確認をしたりしていた。

 

 すると教室に向かってくる足音が聞こえてくる。

 あれ? でもこの足音って――


「――フンッ。しっかり揃ってたか。逃げ出してないかと心配だったんだがな」

「え? 貴方は――」

「イロリ先生ではないのか?」

「えぇ、どういうこと~?」


 ドアを開けて教室を入ってきた教師に皆が目を丸くさせていた。ドクトルが怪訝そうに呟きガロンがイロリ先生とは別な先生がやってきたことに疑問の声を上げた。


 リミットも不思議そうにしてるね。


「イロリは念のため今回のテストからは外した。お前らがカンニングをしても見て見ぬふりをしないとも限らないからな」

 

 確かこの人試験の時に立ち会ってくれたゲズル先生だね。それにしてもその言い方はイロリ先生に対して失礼だと思うよ。


「イロリ先生はそんなことしませんよ」

「――魔力もないような奴にそんなこと言われてもな」


 僕が反論するとゲズル先生が眉を顰めた。イロリ先生のことと僕の魔力は関係ないと思うんだけど……。


「とにかくこのテストはこの私がしっかり監視させてもらう。不正があったならすぐにテストは中止だ。その場合連帯責任として理事長に報告させてもらう」


 眼鏡を押し上げながらゲズルが警告を発した。だけど誰も不正しようなんて考えてないから問題ないね。


「――それとお前。テストと関係ない生き物は禁止だ。外に出しておけ」

「え! 駄目なんですか!?」

「当然だろうが! さっさと表に出しておけ!」


 ゲズル先生に言われアニマがごめんねと謝りつつメーテルとシグルを教室の外で待機させていた。


「動物ぐらい別にいいじゃない」


 メドーサが言った。大目に見て上げてよといった感情が声から感じられるね。


「なるほどな。つまりあのけだものを利用してカンニングするつもりだったわけだな」

「何故そうなる」


 ガロンが不満そうに口にした。


「メーテルとシグマは獣なんかじゃありません。私の大事な家族です! も、もちろん不正なんてしません」

「ふん。どうだかな」


 う~ん。どうもゲズル先生は僕たちを色眼鏡で見すぎな気がするよ。


「さっきからまるで俺らが不正でもするかのような口ぶりだな」


 そう口にしながらアズールがゲズル先生を睨めつけた。最初から疑ってこられて不満がつのってるんだと思う。


「Zクラスなど落ちこぼれしか揃ってないような掃き溜めだ。それぐらい疑って当然だろう」

「酷い言いがかりだと思う! 先生テストの後はお昼がでますか!」


 リミットも不満を口にしているけど同時に食事の心配しているのが彼女らしいよね。


「全ては結果で証明してみせますよ」

「――魔力なしが随分とでかい口を叩けるものだな」


 つい口にしてしまっていた。だって皆の頑張りを僕は知ってるから。


 勿論教師なわけだし不正が起きないように尽力するのは当然だけど、だからといって最初から疑われるのはやっぱり気分がよくない。


「マゼルの言うとおりだよ。そこまで疑うと言うなら疑いようのない結果で証明すればいいんだよ」


 ドクトルも僕に追随するように言い放ってくれた。


「へへっ、マゼルもドクトルも言うじゃねぇか。だがそのとおりだな」

「あぁ。目にもの見せてやろう」


 アズールとガロンがやる気を見せたよ。


「仕方ないわね。私も実力見せてあげますか」

「み、皆と一生懸命勉強したんだもん。わ、私も頑張る!」

「早く終わらせてご飯食べようよ~」

「…………」

「やることをやるだけとお答え致します」


 メドーサとアニマ、そしてリミットも声を上げた。シアンとメイもやる気出してるように思える。


 うん。全員一丸となってテストを乗り切らないとね。


「では答案用紙を配るぞ」


 いよいよテストが配られた。いいと言うまではテストを伏せておく。


「それでは――始め!」

 

 号令がかかり用紙を表にして僕たちはテストに挑んだ。


「あぁそうだ。全て終わったら手を上げて宣言するように。終わった順に教室から出ていっていい、が、お前たちには無用な話だったか。そんなに早くおわるわけないからな」

「先生」

「うん? 何だ? 言っておくがいくら難しかろうとヒントなんてものは」

「えっと、終わりました」

「は? はぁああぁああぁあああぁああぁあ!?」


 ま。参ったな。先生から話を聞いてその通りに宣言したんだけどそこまで驚かれるなんて……。

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