第255話 魔力0の大賢者、に甘えてもらいたい師匠

「さぁマゼル。師匠の胸に飛び込んできても、いいんだぜ?」


 キランっと白い歯を光らせて師匠が両手を広げた。いや、確かに今は誰もいないけど。


「いや、しませんよ?」

「えぇ~マゼルのいけずぅ~」


 師匠が口を尖らせてぶーぶー文句を言ってきた。


「いやいや、こっちの年を考えてくださいよ」

「はは、マゼルはまだ子どもだろう?」


 そりゃ見た目だけならそうなんだけど、師匠は転生前の僕も知ってるわけだしね。


「今の僕が転生直前の姿だったとしても同じこと言えますか?」

「勿論その場合は逆に優しく抱きしめてもらうさ♪」


 いや逆にって……前の姿なら確かに師匠の見た目なら孫みたいに思われたかもだけど。


 でも実際は師匠の方がずっと年上なんだけどね。転生前の僕が子どもだったころから見た目は全然変わってないのだけど。


「マゼル~今、私の年について考えたねぇ?」

「いふぇ、かんがえてまふぇん」


 師匠が僕のほっぺを思いっきり引っ張りながら聞いてきた。昔から師匠は年の話に敏感だ。


「まぁいいさ。でも今回は何事もなくて良かったよ」

「魔狩教団のことですか? 何か心配かけてしまったようでごめんなさい」

「はは、そっちについては全く心配してなかったさぁ。あんな連中に遅れを取るマゼルじゃないからね」


 ケタケタ笑いながら師匠が言った。う~ん、確かに苦労はしなかったけど、事情があるとは言え何人か取り逃がすことになったんだよね。


「その件ですが実は――」


 だからそのことは師匠には伝えておこうと思って話してあげた。相変わらずニコニコしていた師匠だけど真剣に聞いてくれているのが判る。


「なるほどね。人間社会は面倒なしがらみも多いからそれも仕方ないかもね。でも安心しなよ。そんな時のためにこの師匠がいるからね。こっちでも調べておいてあげるさ」


 師匠がドンッと胸を叩いて答えてくれた。確かにこういうときにはまだ学生で制限の多い僕より師匠の方が頼りになりそうだよ。


「それにしてもメイリアちゃんには感謝だねぇ。そのおかげでマゼルも学園を追い出されなくて済んだわけだし」

「それは確かにそうですね。しっかりお礼をしないと」

「うんうん。そうだ! この師匠のサインをその子に」

「いや、それ前断られてましたよね?」


 羽ペンを取り出した師匠に答えたらしゃがみ込んでいじけだしたよ。地面を指で弄っていて精霊に慰められている。


「いいんだいいんだ。どうせ私のサインなんて」

「そんなことでむくれないでくださいよ~」


 こういうところは大人げない師匠だよ。


「でも、本当マゼルが学園に残れて良かったよ。前世でも学園は経験ないもんねぇ」


 師匠が感慨深そうに言った。確かに前世ではまだ学園はそこまで間口は広くなかったし僕も色々あったからそれどころじゃなかったからね――


「せっかく転生したのだからマゼルには青春を謳歌して欲しいのさ。だからもし今回マゼルが退学なんて話になったら――私も何をしたかわからないからねぇ」


 師匠の笑顔が凍りつく。周囲の精霊の雰囲気も変わった。凄い圧力が――


「いやいや師匠! 暴力沙汰は駄目ですよ絶対!」

「ははは。勿論わかってるさぁ。私だってそれなりのエルフ生経験は積んでるからねぇ。結構顔も広いわけだしマゼルの退学に関わった奴らを社会的に抹殺するぐらいどうとでも――」

 

 師匠の笑顔が黒く! いやいや!


「師匠そういうのは本当、これからもやめてくださいね。少なくとも学園のことについては自分の問題は自分で解決したいし、そうでないと――フェアじゃない」


 真剣にお願いしたつもりだ。師匠が心配してくれるのはありがたいけど、こればっかりはね。


「――フフッ、やっぱり転生してもマゼルはマゼルだねぇ。いい子いい子」

「ちょ、もう師匠――」


 何か頭をなでなでされた。見た目は子供だけどあまり子ども扱いは……照れくさいし。


「ま、安心しなよ。よほどのことがない限り余計なことをするつもりはないさぁ」


 それなら良かったよ。よほどのことという点が気になるところでもあるけどね。


「ちゅ~……」

「あ、そうだファンファン!」

 

 ファンファンが小さく鳴いた。流石にこの状況なら問題ないし隠していたファンファンを出してあげた。


「ごめんね。窮屈だったかい?」

「ちゅ~」


 苦しくなかったか心配だったけど平気だよ~とファンファンが答えてくれた。


 そういえばファンファンをアリエルの下へ戻してあげないといけないんだった。


「ちゅ~♪」


 そんなことを考えていたらファンファンが師匠の肩に飛び移って甘えるように鳴き声を上げた。


「おやぁ? あはは可愛らしいなこいつめぇ」

「ちゅッちゅ~」


 師匠がファンファンのお腹や頭を撫でるとファンファンも嬉しそうだ。


 そういえばアリエルが前、ファンファンが懐くのはいい人の印だって言っていたね。


「うん? どうしたんだいマゼル?」


 師匠に懐くファンファンを見てつい笑顔になっちゃった。師匠は僕の表情の変化に気がついたようだね。


「いや、なんでもないです。ところで師匠実はそのファンファンについてなんですが」


 僕はまだ本校舎にはいけない。だからファンファンのことを師匠にお願いしてみた。


「なるほどねぇ。わかったよアリエルにはこの私が責任持って届けるさぁ」

「ファンファンもいいかな?」

「ちゅ~」


 うん。ファンファンも師匠に懐いてるし問題なさそうだね。さて話も大体終わったのでファンファンについては師匠に任せて僕も教室に戻ることにした。


「マゼルそんなに心配はしてないけどテスト頑張れよ!」


 最後に師匠が親指を立てて労いの言葉を掛けてくれた。うん、そうだね。ラーサのことも解決したしここからはテストに集中しないと――

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