第252話 魔力0の大賢者、責任を追求される

 イロリ先生がリカルドに向けて言い放った。僕もイロリ先生の発言に驚いた。何で先生が責任なんて――


「どういうことだ。まさかマゼルが魔狩教団の下へ向かうと知っていながらそれを容認したということか?」


 ギロリと先生を睨みつけリカルドが詰問した。あの時、先生が僕に言っていた言葉を思い出す。


「結果的にはそうなるか。勿論俺としては面倒事は避けたかったからな。そのつもりでマゼルに絶対に山から出るなと伝えた」

「何だ――ならお前に問題はないだろう。学園から出るなと言ったなら寧ろそれを聞いてもなお学園から抜け出し身勝手な行動に出たマゼルに責任がある」


 腕を組み先生の話に耳を傾けていたリカルドだけど、話を聞き終え若干険しかった顔を緩ませリカルドが言い返し僕を見てきた。

 

「違う。俺は山から出るなと言ったんだ」

「は?」

 

 だけど続いたイロリ先生の言葉にリカルドが目を白黒させる。そして、僕は覚えていた確かに先生が山から出るなと言っていたことに。


「マゼル。魔狩教団に向かう際に山からは出なかったんだな?」

「え? あ! はい。確かに僕は山からは出てません!」


 イロリ先生から確認され僕はハッキリ答えた。そこは僕も気をつけていたから間違いがない。


「と、いうわけだ。マゼルは事実上規則をやぶっていないことになる。全く言葉というのは難しいものだな。解釈一つでこうも思いがけない結果に繋がるとは」

「ふ、ふざけるな! 何だそれは! そんな言い訳がまかり通るわけないだろう!」

 

 イロリ先生の発言にリカルドが噛みついた。激昂しかなり興奮しているよ。


「そうは言っても事実だ。私が山からは出るなと言ったのだからな」

「貴様――一体誰の味方だ!」


 リカルドが握り拳で机を叩きつけ先生に問いかけた。でもどっちの味方って……その聞き方はどうなんだろう。


「別に俺は特定の誰かに肩入れしているわけではない。これでも一応は教師だからな。自分に嘘をつきたくないだけだ」

「まだそんな甘っちょろいことを――少しはマシになったかと思えばこれか。忘れたのか貴様のそのくだらない考えで過去学園にどれだけの損失を与えたか!」


 イロリ先生に対するリカルドの目つきがより厳しい物に変わった。


 今の話、何か過去にあったという事だろうか? イロリ先生を見てみたけどどこか表情が固くなったような気もする。


「――とにかく今話したように責任があるとしたら俺だ。罰なら自分に下すといいだろう。それで辞めろと言われれば従うさ」

「え? そ、そんなのダメです!」


 そうだうっかりしていた。ここでイロリ先生だけの責任にされて辞めることになったら――そんなのは駄目だ!


「お願いします! 先生を辞めさせるなんて真似は!」

「マゼル黙ってろ」

「で、でも!」

 

 黙ってられなくてつい口が出たけどイロリ先生の顔を見て気が付いた。


 先生、もしかして何か考えが?


「――なるほどそういうことか。フンッこしゃくな真似を」


 言ってリカルドが歯噛みした。リカルドはリカルドでイロリ先生の考えを察した様子だ。


「だが安心しろ。私も少々熱くなりすぎたが冷静に考えればなんてことはない」


 リカルドが息を整え再び僕を見てきた。


「お前の言うように山から出るなと伝えたとしてマゼルが実際に山から出ていないかどうかはわからんだろう?」

「マゼルが出てないと言っているが」


 イロリ先生がチラリと僕を見ながら言葉を返した。確かに僕は嘘を言ってない。


「そんなもの口からでまかせを言ってるかもしれないだろう。証明にはならん」

「――ふむ。だが逆に言えばマゼルが山から出ていないと証明する者が他にいれば済む話ということだな」

「何?」

「ちょっと失礼するよ」

 

 リカルドとイロリ先生の話が続く中、聞き覚えのある声と同時に扉が開き白衣姿の女性がズカズカと部屋に入ってきた。


 この人、メイリアの生みの親でもあるゲシュタル教授だね。


「くっ、ゲシュタル! ノックぐらいしたらどうだ!」

「はいはい。これでいいかい?」


 そう言ってゲシュタル教授がリカルドの机をコンコンっと叩いた。


 その対応にリカルドが顔を歪める。


「もういい! とにかく今は大事な話をしているんだ。用事なら後にしろ!」

「その話って例の魔狩教団の事だよね~? だったらちょうどいい。僕が持ってきた話もそれとマゼルに関係していることだからね」


 そう言ってゲシュタル教授はいたずらっ子のような笑みを浮かべた。


 それにしても僕のことって一体?

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