第251話 魔力0の大賢者、が退学?

「問題なのはマゼル、お前の行動一つで場合によっては大変な事態になっていたかもしれないということだ」

「大変な……ですか」

「そうだ。運良く上手くいったから良かったものの一学生に過ぎん貴様など教団からすれば本来いいカモにすぎない」


 リカルドが強い口調で責め立ててくる。


「逆に捕まりミイラ取りがミイラになっていた可能性だってある。どうせ何も考えず根拠のない自信で突っ走ったのだろうがな」


 そこまで言った後、フンッと鼻で笑われてしまった。魔狩教団とは何度かやりあっていたから勝てる算段もなしに助けに向かったわけじゃないけど、今の僕が一学生に過ぎないのも確かだ。


 信用を得るのは難しいのだろうな。


「魔狩教団から未来ある子どもたちを救い出したことについては一定の評価を与えてもいいが、だからといって貴様の取った身勝手な行動を許すわけにはいかない。しかも学生である以上お前一人の行動が全体への責任に繋がると理解するべきだろう」

「え? それってクラスの皆にも罰が下るということですか?」


 リカルドの言葉に思わず食いついてしまった。自然と体が前に出てしまいリカルドとの距離が詰まる。


「――何だ? まさか貴様一人の問題で片がつくとでも思っていたのか? 貴様の暴走を止められなかったZクラスの生徒にも当然責任がある」

「そんな――皆は関係ありません!」

「それは貴様の決める事ではない。我々の判断すべきことだ」


 冷淡な目つきでリカルドが答える。確かにイロリ先生もそんな話はしていた。


 だけど――


「……とは言え。さっきも言ったがマゼル・ローランお前の行動で攫われた生徒が助かったのもまた事実だ。それを最大限考慮して――他の連中については不問にしてやってもいい」

「本当ですか!」


 良かった。流石に皆にまで罰が与えられるなんてことになったら申し訳ないもんね。


「あぁ――ただしあくまで他の生徒に関してだけだ。マゼル貴様にはしっかり責任を取ってもらおう」


 そう言ってリカルドが引き出しから一枚の書類を取り出して僕に見えるよう机の上に置いた。


「――これは、退学届?」

「そうだ。マゼル・ローラン。今回の責任を取って今この場でこの退学届に一筆書くがいい。そうすれば他の生徒については不問としてやる。それが今回貴様にくれてやれる最大の温情だ」


 両手を広げリカルドが退学を促してくる。書類には僕の責任についても記載されていた。正直その全てに納得がいくわけじゃない。


 全体的に学園に都合のいいように書かれてる気がするし――ラーサたちを助けたことについても僕のことが多少は触れられているけど結果的に学園の迅速な対応で救出に成功したような話にもなっている。


「さぁどうした? マゼルよ。お前とて自分の行動に問題があったことは自覚しているのだろう?」


 そうリカルドから問われた。勿論まだ学生だったことを考えれば褒められる行動ではなかったかもしれない。


 それにここで拒否すればもしかしたら他の皆にも……そう考えたら――


「どうだ決心はついたか? 貴様は学園に無断で外に出て身勝手な行動に出た。その結果全員が危険な目にあうところだったのだから――」

「やれやれこれは参ったな。たく、だから面倒事はゴメンだというのにおかげでこの俺も学校を辞めなければいけなくなった」


 その時だった一緒に部屋にいたイロリ先生が口をはさみ自分にも責任があるようなことを口にした。


 思わずイロリ先生を振り返る。イロリ先生はやれやれと頭を振りつつ理事長に目を向けた。


「……勿論Zクラスの担任である以上、責任がないとは言わないが辞めさせるなど私は一言も口にしていないぞ?」

「なるほど。しかし今理事長はマゼルが無断で外に出たと言っていたがそれは違う。俺はマゼルが学園を出る直前に会っている。マゼルが妹を助けにいこうとしていたのも理解していた。そのうえで結果的に俺がマゼルが外に出る理由を作ってしまったのだからな。全く責任がないとはいかんだろう。やれやれ我ながら面倒なことに首を突っ込んだものだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る