第250話 魔力0の大賢者、理事長に呼ばれる

 僕はイロリ先生と理事長室に向かった。


「マゼル。その白綿鼠は隠しておけ。見られて面倒なことになるのはゴメンだ」

「あ、そうですね。ファンファンごめんね」

「ちゅ~」


 ファンファンは察したように僕の懐に潜り込んで大人しくなった。本当ファンファンは賢いよね。

 

「理事長マゼルを連れてきた」

「そうか入れ」


 許可が下りイロリ先生と画屋に入った。

 理事長室は広い。大人が六人ぐらい入っても余裕がある程度のスペースが確保されている。


 向かって右手の壁側には来客用のテーブルと革張りのソファがあるね。壁や床も木製だけど、艶があって高級感がある。


 う~んこれって魔法樹だよね。魔法樹はこの世界の魔素を循環させる上で大事な要素となっている。


 そして魔法樹を材料に作った物の近くにいると人の魔力に干渉してリラックス効果があるとされる。


 ただ、そのせいで魔法樹を大量に伐採され過去に問題になったことがあった。自分も関わった案件だったけどその為に人間と自然を愛するエルフの仲が最悪になり一触即発の事態に陥ったこともあるんだよね。


 まぁそれもだいぶ前のことだけどね。それに一切伐採してはいけないというわけじゃなくて刈りすぎが良くないって話だから、今ここに魔法樹を素材にした品があったからって安易に悪と決めつけるわけにもいかないけどね。


 さて、改めて僕は理事長の方を見る。席の後ろには棚がありそこにはトロフィーや賞状などが飾られていた。


 全てリカルドに贈られた物だね。どうやら研究関係が多そうで竜の研究や魔物に関係する物が多いようだね。


 更に視線を移すと竜をモチーフにしたような豪奢な机と椅子、そこに鎮座するリカルド理事長の姿が視界に飛び込んできた。


「……マゼル・ローランよく来たな」


 リカルドは一見すると僕を迎えるような口調を見せたけど、目は全く笑っていない。


「マゼルよ何故私がわざわざお前をここに呼んだかわかるか?」

「……ラーサたちを攫った魔狩教団に関してでしょうか?」


 リカルドから質問を受けたので素直に答えた。今呼ばれる理由としてはそれしかないと思う。


「――そのとおりだ。我が学園が目を掛け特待生として招き入れた子どもたちがあのような教団に攫われたことは由々しき事態だ――」


 机の上で手を組み淡々と語るリカルド。僕に対しての目つきは以前険しい。


「しかし、マゼルよ。お前の手で未来ある子どもたちは救われた。それについては学園の、いや。この魔法学園都市の代表として素直にお礼を言わせて頂こう」


 驚いたことにリカルドからお礼を告げられてしまったよ。雰囲気的に厳しい言葉の一つも飛び出ると思ったのに――


「しかし、だ――」


 いや、どうやら話はそれで終わりではないようだね。眉を引き締め睨むような目でリカルドが口を開く。


「どんな手を使ったか知らないが今回はたまたま上手く言っただけだ。マゼルよ貴様の取った軽率な行動を手放しで喜ぶわけにはいかない。それは判るな?」

「……理解してます。しかし今回は妹のラーサが危険だった為、足が勝手に動いてしまいました」

「まさに勇み足だな。何度も言うが今回はたまたま運がお前に傾き救出に成功したのだろう。いやそう考えるべきだ」


 予想通りリカルドから厳しい言葉が投げかけられた。


「本来であれば我々教師陣に任せるべき案件だ。実際我々も緊急会議を開き魔導師団の準備も進めていたところだ」

「魔導師団?」


 ここに来て初めて聞く組織だ。


「――各魔法学園都市に存在する組織だ。学園は勿論都市に危険が迫ったときや厄介事が起きた時に動く。今回はまさに魔導師団が動くべき案件だったわけだ」


 イロリ先生が教えてくれた。そんな組織が……でもよく考えたら私兵は父様も雇っている。


 これぐらい大きな都市なら騎士団に相当する組織があってもおかしくはないか。


「そういうことだ。だが貴様が余計な真似をしてくれたおかげで魔導師団の準備が無駄となった。不満を持つ者も多いことだろう」

「不満?」

「私の面目も丸つぶれだ。貴様の身勝手な行動でな」


 リカルドが僕を指さし不満そうに述べた。


 勿論冷静に考えれば僕にも至らなかった点もあったかもしれないけど――


「何故、不満なのですか?」

「……何?」

「確かに僕も出すぎた真似をしたかもしれません。ですが攫われた皆は助かり無事です。それは喜ばしいことでは?」


 僕の発言で露骨にリカルドが顔を顰めた。


「無事だから良かったという話ではない。貴様はまだ幼いから大人の事情などわからないだろうが魔導師団にも面子がある」


 ……前世のことはこの際おいておくにしても大人の事情で済まされるのは愉快ではない。


「何だその不満そうな顔は?」

「いえ。ただ皆の命と面子が天秤にかけられてるように思えてしまったので」

「誰が生徒たちの命がどうでもいいなどといった。口の聞き方に気をつけるのだな!」


 リカルドがクワッと両目を見開いて怒鳴り散らしてきた。えっと、そこまでは言ってないのだけど……。

 

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