第245話 魔力0の大賢者、先輩として当然

「お兄様! 私信じてました!」

「わっと!」


 ラーサの鎖を断ち切ってあげると同時に僕の胸に飛び込んできた。


 やっぱり攫われて怖かったんだろうな。落ち着かせようと頭を撫でてあげた。

 

 大分大人びてきたラーサだけどやっぱりまだ十歳の女の子だもんね。


「もう大丈夫だよラーサ」

「お兄様、えへへぇ」

「主様。もう全然平気そうさね」


 なにか呆れたようなアネの声が聞こえた。確かにラーサの顔に笑顔が戻ってる気がするね。


「あ、あの大賢者様! 本当にありがとうございました!」


 えっと、確かフレデリカと呼ばれていた子が僕に駆け寄ってきて頭を下げてお礼を言ってくれた。


 やっぱり学園に推薦された子たちだけあって礼儀正しいね。


「無事で良かった。皆も怪我はない?」

「わ、私はだ、大丈夫さ。いやぁ本当紙一重で捕まってしまってね。それがなければ――」

「君たちも大丈夫かな?」

「無視するなー!」


 なにか銀髪の子が叫んでいた。でもあれだけ喋られるなら大丈夫かなって……。


「私も大丈夫です。ラーサのお兄様なんですよね? 助かりましたありがとうございます!」


 お兄様か。ラーサから僕のこと聞いていたのかな。


「お兄様。アンは馬車の中でも私に良くしてくれたのです」

「そうなんだね。ありがとうラーサと仲良くしてくれて」

「そ、そんな! 私こそ声を掛けてもらって本当に嬉しかったんです! それにラーサが無事で本当によかった――」


 アンがウルウルした瞳でラーサを見た。助かったことで改めて感情が溢れてきたのかもしれない。


「あの! 大賢者様! 私、サンドール公爵家のフレデリカ・サンドールと申します。以後お見知りおきを――」


 二人と話しているとどことなくラーサよりも大人っぽく見えるフレデリカが話しかけてきた。


 髪型もなんとなくゴージャスに思える。


「あの、助けて頂いたお礼を」

「いや、お礼なんていいよ」

「そんな! 公爵家の一女として助けて頂いておいて何もお礼をしないなどありえませんわ!」


 な、なにかグイグイ来る子だね。う~んでもお礼というのも……あ、そうだ。


「本当にいいんだ。それに君たちは僕から見たらこれから入学してくる後輩だからね。先輩として危ないところを助けるのは当たり前だよ」


 うん。これならわざわざお礼をされる必要はないもんね。むしろ後輩から直接お礼をうけとるわけにもいかないし。


「まぁ。大賢者様はさすが高い徳をお持ちなのですね。どこかの誰かさんとは大違いですわ」

「どこかの誰かって誰のことかな?」


 銀髪の子が目を細めて言った。その後顔を突き合わせて威嚇しあってるけど――


「仲がいいんだね」

「「どこが!?」」

  

 声までハモらせて息がぴったりだよ。


「うぬぬ、またお兄様の……ライバルがまた増えそうです――」

「やれやれ流石は主様だね」


 ラーサとアネの話し声が聞こえてきた。ライバル、か。もうライバルになりそうな子を見つけてるなんて流石ラーサは学園生活の先を見据えてるんだね。


「そういえば君たちは大丈夫?」

「あ、はい。体は大丈夫です。だけどグリンが大分ショックを受けてるみたいで」


 ショック? 攫われたことがそんなに衝撃的だったのかな……。


「――お兄様。私たちグリンくんのおかげで助かったんです?」

「そうなの?」

「はい。グリンくんの作戦がなければ牢屋に捕らえられたままでしたが、グリンくんが色々と考えてくれて……」


 なるほど。そうだったんだね。僕も急いだけどずっと閉じ込められていたらもしかしたら助けるのに手こずったかもしれない。


「皆を守ってくれてありがとうね」

「ちゅ~」

「……同情はやめるのだよ。僕なんて何の役にも――」

「ラーサは同情なんかでそんなことは言わない。本当に感謝してるから僕に教えてくれたんだよ。みんなが助かったのに君の助けが大きかったのは確かだと思う」


 そう話して聞かせるとレンズの奥の瞳が僕に向けられた。


「本当に、僕なんかが?」

「そ、そうだよグリン! もっと自信を持っていいんだよ!」

「はい! それに馬車でもグリンくんの力でひと泡吹かせることが出来たし」


 アンもラーサに倣ってグリンを励ました。おかげでグリンの瞳にも光が戻っていったよ。


「ま、まぁ僕もずっと気にしてるわけにもいかないのだよ。失敗から学べないいだけなのだよ」


 うん。良かったグリンも完全に立ち直ったようだね。さて、あとは残った魔狩教団のメンバーだけど……。

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