第243話 魔力0の大賢者、あっさり司祭を倒す

 インビジをふっ飛ばした僕だけど、それを認めたデグスが信じられないような顔でこっちを見ていた。


 様とつけてるあたり、立場は今倒した相手の方が上だったようだね。


「ありえん! インビジ様は【透明化】のギフトを授かりし第四位の司祭。それがこうもあっさり見破られるとは!」

「今も言ったけど透明になったところで気配ですぐにわかったよ」

「だからそれがありえんと言っておるのだ!」


 ムキになりデグスが叫んだよ。僕としては大したことをしたつもりはないのだけどデグスはそう思っていないようだ。


「インビジ様はこれまでも多くの魔法使いを暗殺してきた。ただ透明になれるだけではなく気配を消すことにも長けていたのだぞ!」


 えぇ、そう言われても特に嘘は言ってないんだけどなぁ。


「悔しいけどそいつの言ってる事は間違いじゃないよ。主様の魔法程ではないけどあたしだって気配を探るのは得意さ。そのあたしでもインビジが近づくことに気がつけなかった」


 アネが言った。なるほど。確かに透明になれるだけの相手ならアネなら対処のしようがあったと思うしね。


「そういうことだ。それなのに一体どんな卑怯な手を使った!」

「いや、人攫いするような集団に卑怯者呼ばわりされても……」

「ちゅ~……」


 聞いていたファンファンも呆れているよ。


「でもインビジが出来たのは精々自分の気配を消すことだけだよね。周囲の気配まで消してるわけじゃない」

「……は? 貴様、何を言って?」

「気配というのは別に生物にだけあるわけじゃないよ。地面にだって空気にだって気配はある。生物はそういった周囲の気配にも干渉して生活しているんだ。インビジが透明になっても動けは周囲の気配に変化が出る。僕はそれを利用しただけだよ」

「な、なな――」


 デグスが蹌踉めき数歩後退りした。かなり動揺しているみたいだ。


「流石お兄様の究極探知魔法です。まさか目に見えない空気の気配まで読めてしまうなんて」

「噂には聞いていたけど、目の当たりにしたら凄すぎて言葉になりません」

「ま、まさか本当にそんなとんでもない魔法が使えるのか? 魔力0というのは嘘だったのかい?」

「馬鹿だね。主様のお力が人の図る魔力測定なんかで測れるわけがないじゃないか」


 う、う~ん。また何か誤解を受けてる気がするよ。


「み、認めん認めんぞ! 我々の計画は完璧だった! 貴様なんぞに邪魔されてたまるか!」


 デグスがまた僕に火銃を向けてきた。弾丸が連続で発射されたけど僕の目には飛んでくる弾丸がとてもゆっくりした動きに見える。


「もう諦めなよ」

「ちゅっ!?」


 飛んできた弾丸を全てキャッチし放り投げた。ファンファンが驚いているよ。


「頑張って改良を施したみたいだけど火薬の効果には限度がある。残念だけど切り札にはならないよ」

「ふ、ふざけるな! 本来なら魔切の効果で強化魔法も無効化出来る筈なのに!」


 あ、はい。そもそも僕強化魔法は使ってないし……。


「あぁお兄様はやはり圧倒的すぎます」

「主様が駆けつけた時点で勝ったも同然だったね」

「何かとんでもない物を見てる気がするよ。ね、グリン?」

「…………」


 ラーサとアネの評価が過大過ぎる気が……。

 青い髪の少年もこっちを見ながら眼鏡を掛けた少年に話しかけてるね。だけどグリンと呼ばれた彼はぶつぶつと呟き続けている。


 今回のことがショックだったのかもしれない。才能を認められた逸材とは言えやはりまだ子どもだし仕方のないことかも。


「皆のことも心配だし決着、つけさせてもらうよ」

「ア~ッハッハッハッハッハ!」


 デグスに向けてそう宣言すると、額に手を添えて大声で笑い出した。


「……何がおかしいの?」

「フフッ。まさか本当にこんな事になるとは思わなかった。貴様は学園に閉じ込められていて自由がきかないという話も耳に入ってきていたからな」


 僕のことが? つまり学園での生活が教団側に筒抜けだったってことか。


 でも一体どうして? まさか学園側に魔狩教団と通じてる人間がいるとか……?


「お前はさっきこの銃では切り札にはならないと言ったな? ハハッ、だったら私からも一言いわせてもらう。切り札というのは最後までとっておくものだ!」


 そこまで語るとデグスが懐から一本の注射器を取り出し首に刺した。


「その注射、一体何を?」

「ちゅっ、ちゅ~……」


 ファンファンが不安そうにしている。僕が問いかけてもデグスはただニヤリと不敵な笑みを返すだけだった。


 直後――でグスに変化が現れる。


「ぐぐぉ、あ、ぐ、ぐぞぉ、副作用があるとは、きいて、いたが、がががあがああsflkmjわfじゃkfじゅあいおwふぃぁjfkぁj!」


 デグスの着ていたローブが弾け飛び肉体がそれぞれ別の生物のように蠢き出した。一旦四肢が胴体に引っ込みかと思えば長大な腕と足に生え変わる。


 胴体もそれに合わせて肥大化し体色も緑色に染まっていった。腕は本来より数が増し四本の腕には鋭利な鎌が備わっている。


「ゴロス! だいげんじゃッ、ゴロス、全員、全員、全員、全員、みな、殺しだぁああぁああ!」


 変貌を遂げたデグスが吠えた。これが切り札ってそれでこんな化け物になってたら仕方ないだろうに――

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