第242話 魔力0の大賢者、攫われたラーサ達のピンチに駆けつける

 御者のおじさんから話を聞いて僕はラーサたちの囚われている洞窟へと急いだ。


「向こうに気配がある。少し飛ばすね」

「ちゅ~!」


 できるだけファンファンには負担が掛からないようにして僕は足に力を込めた。

 

 気配の集まっている場所に到着すると洞窟の雨にラーサや恐らくは一緒に攫われた子たちの姿。


 そして――あれはアネ? だけどサイズが随分と小さいしどここなく違いがある。


 とは言えピンチなのは確かだ。何者かが銃でアネを狙っている。引き金をひくと轟音が鳴り響きアネに向けて弾丸が発射された。


 僕はアネの下へ急ぎ掬うようにして手のひらに乗せて凶弾からその身を守った。


 涙混じりのラーサの声がした。更に攫った犯人の声も。


「何故だ! 何故貴様がここにいる!」


 銃を撃った男が叫ぶ。そんなものみんなを助ける為に決まってるだろう。


 言いたいこともあるけどアネの怪我が酷い。


「アネ今治すから」


 僕がそう語りかけるアネが首を左右に振った。


「あたしのことは大丈夫だよ主様。あたしは本体から分かれた分体さね。死んだところで分体のあたしが消えるだけさ。本体にそこまで影響はないよ」


 そうかサイズが小さいのも分体だからってことなんだ。でも――


「馬鹿な事言わないでよ。アネはアネだろう? 今こうやって話してるわけだし、それにきっとみんなを守ろうとしてくれた」

「ちゅっ! ちゅ~!」


 僕がそう答えるとファンファンもアネを励ますように鳴いてくれた。


「お兄様の言う通りです。アネは分体かもしれないけど私たちを守ろうとしてくれた」

「うん。そうだよね。だから皆も一緒に今治して――」

「お前ら何ボーッとしてる! さっさとあいつを撃ち殺せ!」

「は、はいデグス様!」


 デグス、アネを狙っていた男の名前か。そのデグスの命令で今度は複数の轟音が鳴り響いた。


 だけど――


「お前らの相手は後でしてあげるよ。だから今は少し黙っててくれない?」

「「「「「ヒッ!?」」」」」


 少し圧を込めたらデグスが片膝を付き他の仲間もバタバタと倒れていった。


 それを認めつつ僕はアネや皆を治療した。


「疲れが全くなくなったよ……」

「す、すごいこれって治療魔法? でもこんな一瞬で……」

「これがあの大賢者様の大魔法――」


 魔法じゃなくて申し訳なくもあるけどアネも皆も元気をとりもどしたようでよかった。


「アネ……良かったぁ」

「はは、本当主様の力はいつみても規格外さね」

「ちゅ~ちゅ~♪」


 アネが回復してラーサも喜んでるね。とにかく大事に至らなくてよかった。

 

「アネ、ラーサたちの側に」

「はぁ、折角再会できたのだからもっと主様と触れ合いたかったけど仕方ないねぇ」

「あ、アネったらもう!」


 からかい気味に口にするアネをラーサの肩に乗せて上げた。


 さてと後はこの魔狩教団だね。


「く、くそ! 我々がこんなガキどもに舐められたままでたまるか!」

「…………」

  

 デグスが再び銃口を僕に向けてきた。これ火銃だね。転生前に僕が暮らした時代でも存在した銃だ。


 ただ、あの頃に比べると随分と小型化したものだね。それに当時のよりも扱いが簡単になってそうだ。

 

 前の時代のは火薬を詰め込むのも大変そうだったからね。


 それだけ技術が進化したのだろうか。

 いや、確か火銃は魔素との結びつきが悪いという理由で浸透せず一般的には技術は衰退したとされている筈。

  

 つまりこれは魔狩教団が独自に開発した物ということだろうか? 奴らは魔法を使うことを認めず敵視しているから火薬を利用したのかもしれない。


 それにしても、その勤勉さをもっと別なことに活かせばいいのにと思えて仕方ない。


 それはそれとして、デグスの口元が不敵に歪んでるわけだけど。


「馬鹿だね主様にあんなもの通じるわけないさね」

「それはどうかな? 死ね!」


――ドゴオオォォォオォオォオォオォオオッ!


 デグスが叫んだ瞬間、僕が裏拳を繰り出すと後方の岩壁が人型にめり込んだ。


 その光景にデグスが両目を見開いて絶句していた。


「そ、そんなインビジ様ーーーーーーーー!」


 デグスが叫んだ。

 うん。どうやら姿を消して僕を狙ってきたのはインビジという名前だったらしいよ。残念ながら気配でバレバレだったけどね――


 

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