第240話 ラーサだけ別
side アン
「あれ? ラーサが……」
私たちの全員の鎖が外れた――そう思っていたのだけどラーサの鎖だけは外れてなかった。
「悪いとは思ったけどグリンとの会話でその子の鎖は外さないほうがいいという話だったからな」
「正解なのだよ。不便をかけるかもしれないが――」
シルバが事情を話しグリンもそれに納得していた。
「あたしは外してくれたみたいだね」
アネはしっかり鎖が外れているよ。つまり主のラーサだけが鎖で縛られたままということだよね……。
「ラーサだけだなんて何か悪いよ……」
「アン私は大丈夫だよ。そういう話なら仕方ないので」
申し訳なく思っているとラーサがにっこりと微笑んでくれた。私たちを責めている様子はないし本当に出来た子だと思う。
「でも、よく考えたらそれで私たちは大丈夫なわけ?」
フレデリカが聞いてきた。ラーサのことはわかったけど私たちの鎖が外れても何かしら反応があるのではないかという意味かも。
「これも予測でしかないが、奴らはラーサについては事前に知っていても僕たちについて詳しいことは知らなかったと見ているのだよ」
「えっと、どうしてそう思うの?」
フレデリカの疑問に答えるグリンに私は続けて質問した。
「奴らはラーサのことは大賢者の妹として捉えて話していた。一方で僕たちについてはほとんど触れなかったのだよ。それはラーサ以外には関心がなかったか調べがついてなかったかそう考えるのが自然なのだよ。知らない相手にそこまでの仕掛けは施さないと考えるのだよ」
「でもそれって憶測よね?」
グリンの話を聞いてフレデリカが疑問を投げかけてるよ。
「勿論そうなのだよ。しかしこの状況でリスクは減らしておきたいのも事実。それに例え間違っていたとしてもいざとなればすぐに彼女も解放出来るのだよ」
「たしかにもうコツはわかった。ラーサ、君が望むならいつだって私が助けてあげるからね! だから今だけは我慢してくれ!」
「はぁ……」
何かシルバがラーサにアピールしているけど肝心のラーサの関心は薄そうだよ。
「それにしてもグリンの言うとおりだとして何であいつらは眉唾ものの大賢者なんかを意識してるんだろうな?」
「貴方この状況でよくそんな事言えたわね」
「ん? あ!」
フレデリカが呆れた様子で言うとシルバがしまったという顔を見せた。案の定ラーサが頬を膨らませて不機嫌になる。
「お兄様は本物の大賢者です。皆も見ればわかるんだから」
「全くだね。見もしないで適当なイメージで語るなんて愚かしいにも程があるよ」
「いや、ち、違うんだ!」
ラーサとアネにせめられてシルバが一生懸命弁解しているけど二人の視線は冷たいよ。
「いい加減にしたまえ。そんなふざけあってる場合ではないのだよ。さぁすぐにここを出るのだよ」
グリンが声を大にして私たちを促した。確かにこんな場所は早く出たいよ!
「先ず入り口なのだよ。見張りを何とかしなければいけないのだよ」
「私の出番ね!」
当たり前だけど出入り口になってる部分には見張りが立っていた。
するとフレデリカが張り切って魔法を行使する。
「異界よりの隙間、幻想の住人への誘い、好奇心旺盛な妖精よ我が召喚に応じよ――妖精召喚魔法・ピクシー!」
フレデリカの魔法で羽の生えた小さな妖精が出現した。見た目は本当羽の生えた少女といった感じだよ。
「この妖精で何とか出来るのかい?」
「まぁ黙って見てることね」
シルバが怪訝そうに聞いていたけど、軽くあしらうようにしながらフレデリカがピクシーに何かを囁いた。
するとピクシーがコクコクと頷き外に出ていく。
「むっ、なんだこいつ、は――」
「くせも、の――」
見張りの声が一瞬聞こえたけど、その声もすぐに小さくなっていってついには寝息が聞こえてきた。
「寝ちゃったんですね」
「フフン。ピクシーの扱う妖精の粉は対象を眠りに誘うのよ」
「なるほど。確かに援護に向いた魔法なのだよ」
凄い。相手を眠らせるのは花魔法にもあるけど私の魔法は花を咲かせるのに適した場所が必要なんだよね。
「今のうちに出るのだよ!」
「うん。そうだね」
グリンに促されて私たちは出口めがけて急いだ。
幸い他にはこれといった相手にも出会うことなく洞窟の出口らしき穴が見えてきた。
「このまま出るのだよ」
「――待ってこれってちょっと」
「急ごうラーサ!」
「あ!」
私はラーサの腕を取って出口めがけて走った。ラーサは腕を鎖で巻かれたままだから走りにくいかもしれない。
だからその分は私がカバーする! そう思って出たのだけど――
「ハハッ、一瞬でも希望は感じられたかな?」
「な!」
「ど、どういうことだよグリン! 外に何で教団が!」
私たちが外に出ると正面には魔狩教団が並んで待ち構えていた。グリンとシルバからは動揺の声……。
そんな、私たちが逃げるのがバレていたなんて――
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