第239話 密室の二人

 薄暗い密室にて二人の人物が顔を突き合わせていた。内の一人は明らかに不機嫌そうであり額には谷のような皺が刻まれていた。


「一体どういうつもりだ! こんなこと計画にはなかっただろう!」


 一人が声を張り上げると、もう片方の人物が頭を振って見せた。


 そして怒りの感情をぶちまける方とは対照的に冷静な顔で答える。


「そんなことを私に言われてもね。人攫いの話などこっちの耳にも届いてない」

「ふざけるな! 貴様らは部下の管理も出来ないのか!」


 イライラを募らせる一人をもう一人が冷めた目で見ていた。


「確かに話していた筈だ。あの計画には攫われた連中が必須なのだ! 私が一体どれだけの月日と費用をこのために掛けたと思っている」

「そんなこと私には関係のないことだ。ま、話には聞いてないがやり口から見て支援者への貢物として攫ったのだろう。ならば貴様も金を出せばいい。そうすれば戻ってくるだろうさ」

「貴様! 私の足元を見るつもりか!」


 自然と声が荒ぶるが冷静な一人は指を立てて静まるように示した。


「そんな声を上げて見つかってもいいのかな?」

「ぐっ――とにかく貴様から早急に連絡を取れ! なんのためにここにいるとおもってる!」

「――何か勘違いしているようだが、私がこの場にいるのは貴様が信用に足るかどうかを調べるためでもある。貴様の小間使いではない」


 二人の関係は必ずしも良好とは言えないようだ。認識にそもそも違いがあるようでもある。


「――言っておくがこの計画は貴様らにとっても有意義なことだ。アレの復活にはそれだけの価値がある。わかったらさっさと連絡を取れ。手違いの可能性だってあるのだからな」

「――フン。仕方ない。連絡だけだぞ。その後の事は私には関係のないことだ」


 そして冷静な方が密室から出ていく。


「――信用していないのが貴様らだけだと思うなよ」


 残された一人は去っていく背中を認めた後、目に鋭い眼光を残しながら独りごちた――




「随分と不機嫌そうだね」

「フンッ。この私が子どものお使いみたいな真似をさせられているのだ。不機嫌にもなる」

「ハハッ。ま、仕方ないよね。ここに来るのを決めたのは君なんだし」

「――研究の役に立つと思ったからな」

「そういう意味では君は生みの親に一番近いのかもね。ちょっと変わり者だし」

「貴様には言われたくないな。特に必要とされてもいないのに自分からわざわざやってきたのだから」

「僕は好き勝手生きるって決めてるし君たちにもそう言ってるよね?」

「別に文句はないさ。そういう意味では全員きっと変わり者であり一人一人好き勝手やっている」

「フフッ。ところでさ実はちょっとは関与してるんじゃない? 事件に」

「――くくっ、さてそれはどうかな?」

「……ま、上手くいくといいね。ただやっぱり難しいかな。だって――彼が動いたからね」






◇◆◇


 う~ん。どうやら後ろから尾けられてるみたいなんだよね。

 

「振り切ってもいいけど――」

「ちゅ~?」


 服の中から頭だけこんにちはさせているファンファンが小首を傾げた。ある程度距離が離れてるからファンファンの鼻でも気づかないかな。


「悪意ある相手じゃないしとりあえずこっち優先かな」

「ちゅっ!」


 ファンファンも拳を握るようにして鳴いている。あまりそっちに気を取られてラーサたちの救出に影響が出たら本末転倒だ。


 それに山からは出ちゃいけない。そういう話だったからね。


 速度を上げすぎて山から出ちゃったら元も子もない。


 さてとにかく手がかりを見つけないと――


「あれ? 誰か怪我してる人が倒れてる。これは――放ってはおけないね!」

「ちゅ~!」

 

 ラーサたちのこともあるけど、でも、もしかしたらその人が何か見たという可能性もあるし何より怪我して倒れてる人を放ってはおけない。


「大丈夫ですか!」

「な! 君は一体?」


 急いでけが人の元へ向かうと中年のおじさんが驚いた顔で誰何してきた。


 良かった話はできそうだ。けど――四肢が砕かれている。額からは脂汗がにじみ出ていて息も荒い。


「僕はマゼルです。それよりまずは怪我を!」

「む、無理だ。簡単な怪我じゃない。強力な治療魔法の使い手でもいなければ、て、あれ?」


 おじさんが話している間に汗を振りまいて治療した。するとおじさんが腕を曲げ立ち上がった後目を見開いて僕を見てきた。


「お、驚いた! マゼルといったか? さては教会の神官、いや司教クラスの魔法の使い手なのかな?」

「い、いえ。魔法学園のただの生徒です」

「魔法学園の!?」


 素性を伝えたら更に驚かれてしまった。


「いやしかし助かった。最近騒がれてる魔狩教団というのにやられてもうだめかと思ったからな」

「え? 魔狩教団! もしかして――魔法学園に向かう子を知ってるのですか?」

「知ってるも何も御者として運んでいたのが私だよ」


 おじさんの答えに驚いた。でも、それならラーサたちの行方がわかるかもしれない!

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