第237話 誰を選ぶ?

side アン


「だから魔法もないのにどうやって何とかするつもりなんだ?」


 シルバが少しイラッとした口調でグリンに問いかけた。わけもわからず危険な集団に攫われたわけだしイライラするのもわかるけど空気が悪くなるのはちょっと嫌だな……。


「確かに今魔法が封じられている状態なのだよ。しかし、逆に言えば魔法さえ使えればここから抜け出すことは容易いということでもあるのだよ」

「いや、そんなの当たり前よね?」


 フレデリカが眉を顰めて口出しした。う~ん言ってることはそのとおりだけどそれが出来たら確かに苦労はないんだよね――


「ねぇグリン。もしかしてこの鎖から逃れるいい手があるの?」

 

 ブルックがグリンに聞いていた。なんだか二人はとても仲が良さそう。


「考えがあるのだよ。そこでラーサといったな。君の従魔に協力をお願いしたいのだよ」

「アネのですか?」


 グリンがラーサに頼んだ。彼女の従魔と言えばアネだけど――


「えっとアネも確か力が封じられているんじゃ?」


 私は縛られたアネを認めつつ言った。


「……悔しいけどそうさね。もしこの鎖を引きちぎれって話なら難しいね」


 アネはため息交じりに答えた。やっぱりそうなんだ……。


「アネもこう言ってますが役立てることはありますか?」

「大いにいあるのだよ。力は確かに封じられているだろうが鎖に縛られていても下半身はある程度動くだろう?」

 

 ラーサが問いかけるとグリンがアネに向けて聞き出したね。アネは目をパチクリさせつつ蜘蛛の足部分を動かした。


「確かにあいつらこっちは動けるようにしてるからね。魔力さえ扱えないようにすればそれで十分だと思ったんだろうさ」

「上出来なのだよ。それならば爪を使わせて欲しいのだよ」

「爪――あ、そうか! 爪で鎖を切るつもりなんだね!」


 話を聞いて思いついた。その手ならもしかして……。


「――それができるなら苦労しないさね。元のサイズならともかく今のあたしは小さいからね。こんな爪じゃ」

「いや、それでもヤスリがけみたいに使えば十分可能性はあるのだよ」


 足を上げて爪を見てアネがため息する。そんなアネに向けてグリンが考えを言った。ヤスリみたいに……爪でこすり続けるってことなんだね。


「それでなんとかなる物なのか?」

「なのかではないやるのだよ。ここを抜け出さなければ学園どころではない人生が終わるのだよ」


 シルバは疑わしそうな顔をしているけど確かに何もしないよりは行動した方がいいよね……。


「ヤスリ――それなら爪よりも足の毛が使いやすいと思います。アネの足の毛はかなりザラザラしてますから」

「――何か気になる言い方だけどね。まぁ否定はしないさ」


 ラーサが思い出したように教えてくれたよ。アネは不服そうでもあるけど認めてくれた。


「それはいいのだよ。それなら誰の鎖を切るか決めるのだよ」

「え? 全員じゃないの?」

「ある程度時間がいる作業なのだよ。全員でやっていては目立つだけ。奴らが見回りに来た時にカバーする必要もあるのだよ」


 グリンが一人に絞る理由を言った。言われてみれば確かにそうかな……。


「だから誰か一人に絞って鎖を切らせるのだよ。もちろん切った後で他の全員を助けられる魔法を使える方が望ましいのだよ」


 そうか……でもそうなると――


「そ、それならラーサが一番だと思う!」

「え? 私ですか?」


 私が推薦するとラーサがキョトン顔を見せた。でもこの状況じゃラーサしか――


「却下なのだよ」


 だけどグリンには否定された。どうして!


「何でなの? ラーサはこの中で一番魔力が高いし最初に助ければ――」

「僕は彼女の魔法を見てないから断言は出来ない。しかしそれ以前にラーサはもしかした奴らにとって特別な可能性がある。ラーサに関してだけは下手なことはしないほうがいい。それが僕の考えなのだよ」


 それがグリンの答えだった。ラーサは特別――そう言われてみると……大賢者の妹ということで警戒されている可能性はあるのかな……。


「できるだけ安全策は取ったほうがいいのだよ」

「そうなると――ま、まさか私!?」


 フレデリカが目を見開いて問いかけた。そういえばフレデリカってどんな魔法を扱うんだろう?


「……君は一体どんな魔法を扱うのだよ?」

「ふふん。自慢ではありませんが妖精召喚魔法が扱えるのですわ」


 妖精召喚……何か使えそう!


「召喚した妖精は何が出来るのだよ?」

「回復したりちょっとした魔法を使ったり」

「却下なのだよ。それでは確実性に欠けるのだよ」


 グリンはフレデリカに否を唱えた。う~んすごそうだけどちょっとした魔法がこの状況で使えるとは限らないのも確かなのかな……。


「僕も役には立てないと思うな……」

「それは僕もなのだよ。僕の魔法に必要な種は奴らに奪われたのだよ」

「うぅ、私の魔法も花を咲かすだけだし……」


 正直私の花魔法じゃ鎖は切れない。


「不甲斐ないことですが私たちにも厳しいと思います……」


 フレデリカの付き人のような二人にも厳しそうだった。でも、そうなると――


「ふむ――そうなると後は君だけなのだよシルバ。一体どんな魔法が使えるのだよ?」

「え? わ、私の扱うのは銀魔法だ。銀を操り形を変えたり操作できるまさに貴族の中の貴族にしか扱えない素晴らしい魔法!」


 シルバが自信満々に言い放つ。でも銀……。


「偉そうに言ってますがこの状況じゃ役立てませんですわ」

「な、何だ偉そうに君だって!」

「いや! それは十分使えるのだよ! この状況で最初に解放するなら君しかありえないのだよ!」


 グリンが目の色を変えて声を張り上げた。でも銀で一体何が?

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