第236話 大賢者の噂

「ね、ねぇその大賢者というの? 本当に助けに来てくれるの?」


 デグスたちが出ていってすぐにフレデリカが縋るような顔でラーサに聞いていたよ。


 大賢者様の噂は私の町にも伝わっていた。話にあるような伝説の数々が本当なら来てくれてもよさそうだけどデグスの言っていた通りなら確実とも言えないような……。


「ゼロの大賢者の再来とも言われているお兄様です。きっと助けに来てくれると信じてます!」

「主様に頼り切りなのも情けない気がするけどこの状況だとねぇ」


 真剣な目でラーサが答えた。アネも自嘲しながらも助けに期待してるみたい。

 

 ただ、話を聞いたフレデリカは微妙な顔をしていた。


「ゼロの大賢者……そういえばそのような話もありましたね……」

「だけどそれが本当ならむしろ期待出来ないね」

「はい?」


 ラーサとフレデリカの話にシルバが割り込んだけど、その表情には微妙な空気が感じられる。


「ゼロの大賢者って詐欺まがいの方法で魔法が使えると民衆を騙していた奴のことだろう?」

「最近、またそのような話をして人々を騙している自称大賢者の生まれ変わりがいるとも聞きましたわ」

「ななッ!?」


 シルバとフレデリカの話を聞いてラーサが信じられないといった顔を見せたよ。


 私も正直驚きだな……マナール王国だと大賢者様はとても尊敬されているし……。


「一体誰がそんなデタラメを!」

「いや、誰と言うか私たちの国では皆知ってる話ですことよ」

「むぅ~」


 ラーサがムキになって問いかけるけどフレデリカは戸惑った様子で答えていたよ。


 それを聞いたラーサがほっぺを膨らませて唸り声を上げていた。何だかそういう姿も可愛らしい……。


「あの、私も何でそんな話になっているのか信じられません。私も大賢者様の偉業は耳に入って来てますしゴブリンシーザーを倒したり姫様を救出したりとその活躍は枚挙に暇がない程です」

「そうさ。主様はこのあたしにも勝ったんだからね」

「ふぇ? ゴブリンシーザーを?」

「それは流石に嘘が過ぎるってもんだろう。お前もそう思うだろう?」


 フレデリカもシルバも私たちの話に半信半疑といった様子。そしてシルバがグリンにも同意を求めたよ。


「――確かにそんな話も耳にするのだよ」

「だろう? やっぱり眉唾なんだよ」

「だが、あくまで聞いただけで僕の目で確認したわけではないのだよ。僕は自分の見たものを信じる。噂話などそれこそ信憑性が薄いという物なのだよ」


 眼鏡を直しながらグリンが答えていた。どうやら二人とは考え方が違うみたい。


「――とは言えその大賢者が助けに来てくれるといった希望的観測も感心しないのだよ。奴らの言う通り今学園にいるのなら期待薄と見た方がいい」

「な、なぜそんなことがいい切れるのですか!」


 グリンは助けに来ることには否定的みたいでラーサは強い口調でわけを聞いた。


「魔法学園の規律は厳しい――それは有名な話なのだよ。学園側が一生徒に過ぎない君の兄を簡単に出すとは思えない」


 ラーサに聞かれ淡々とグリンが答えていく。


「何より例え僕たちが攫われたことを学園側が知ったとしても生徒に教えるとは思えない。である以上君の兄が助けにくる可能性は低くそれならば学園側が手配した人間がやってくる可能性に掛けたほうがよいのだよ」

「う――」


 グリンの答えは――納得の行くものだと思うよ……ラーサも反論できていないし。


「それなら学園側が助けに!」


 フレデリカの顔が明るくなった。今の話で他の助けが来ると思ったんだね。


「とは言え、それもそう簡単ではないと思うのだよ。あの連中がそう簡単に居場所を突き止められるような真似をするとも思えない」

「ちょ、待ってくれよ。それなら結局絶望しか待ってないじゃないか」


 シルバが狼狽えながら反論する。グリンは眼鏡を指で押し上げながら口を開いた。


「助けに期待出来ない以上――やはりここは僕たちが行動に出るべきなのだよ」

 

 それがグリンの結論だった。でも私たちでこの状況で何が出来るのかな――

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