第234話 捕まった大賢者の妹

side アン


 うぅ、私たちは魔狩教団に捕まってしまった。そのまま目隠しをされて馬車ごとどこかの洞窟に連れてこられたようだ。


 今は目隠しは外されたけど鎖で縛られてしまい身動きがとれないよ。しかも洞窟に作られた牢屋の中に閉じ込められているし……。


 周りの皆も藻掻いてるけど頑丈な鎖な上、魔法も行使できなくなってしまったよ……。


「アン大丈夫?」

「う。うん怪我はないけどラーサは?」


 ラーサが私に声を掛けてくれたよ。自分も大変なのに優しい……。


「私は大丈夫です。でも――」


 ラーサの視線が地面に倒れているアネに向いたよ。強い魔獣なアネも奴らの手で意識を奪われてしまっていた……魔狩教団というのはそんなに危険な奴らなの?


「うぅ、どうして私がこんな目に……」

「お嬢様落ち着いてください。きっと今に助けが来ます」

「うぅ、怖いよぉ……」


 フレデリカが伏し目がちに不満を口にした。声に力がないね……そんなフレデリカを青髪の女の子が元気づけようとしている。だけどもう片方のお付きの子は不安そうだ。こんな状況じゃ仕方ないかも。


「今更愚痴を言っても状況は変わらないのだよ」


 一方でグリンは淡々と口にしてるね……。この状況でも不安とかないのかな?


「お前、どうしてそんなに冷静でいられるんだよぉ……」

「ははっ、グリンが取り乱したところ僕も見たことないかも」


 泣きそうな声でグリンに語りかけたのはシルバだ。それに答えたのはブルックだったけどね。


「う、ん……あれ? ここはどこだい?」

「良かった。アネ気がついたんだね」


 ラーサが使役しているアネが気がついたみたい。ラーサが心配そうにアネに声を掛けていた。


「ラーサ……そうかあたしは奴らに……」


 アネがラーサに気が付き何かを思い出すように呟いたよ。


「でもアネがこんな事になるなんて、一体何があったの?」

「それがあたしにもよくわからないのさ。ラーサと話した後、馬車の外にいた連中は確かにあたしが倒したはずなんだけどね……何か首を針で刺されたような感覚がしてそっからの記憶がない。て、何だいこの鎖、邪魔くさいね」


 鎖はアネにも巻かれていた。それをうざったそうに見ているよ。


「アネこの鎖はなんとかできそう?」

「……チッ難しいね。どうやらこの鎖、魔力制御を乱す効果があるようだよ。魔法を封じられるよりよっぽど厄介だねぇ」

「魔力制御……そうかそれで魔法が使えないんだ……」


 魔法を扱うには魔力をコントロールしないといけないんだよね……その制御が乱されると魔法を上手く行使出来ない。


「あたしらみたいなのはパワーも魔力で補ってる。魔法を封じられたぐらいならそれで何とかなるけどねぇ」


 そうか魔力そのものが乱されると強化も上手く出来ないんだ……。


「どうやら目が覚めたようだな」


 すると何人かの足音が近づいてきた。やってきたのは私たちを捕まえた魔狩教団の奴らだ。


「フフッどうかな居心地は?」

「いいわけ無いさね。あたしをこんな目に合わせてどうなるかわかっているんだろうねぇ?」


 先ずアネが教団の男に反応した。確かデグスと名乗っていた男だよ。その男を恨みがましそうに睨んでいる。


「おぉ怖い怖い。だがこの状況で一体何が出来る?」


 おどけるような仕草で相手が答えた。アネを全く恐れていない。鎖があるから何も出来ないと思っているのかも……。


「お、お前たちは一体何なんだ! どうしてこんな真似」


 シルバが教団の男に向けて声を張り上げ聞いた。仮面の奥に見える瞳が冷たく私を見下ろしている。


「フンッ。我らは魔狩教団、そう言っていた筈だが。物覚えの悪い馬鹿は今すぐ処刑してやろうか?」

「あ、うぅ……」


 シルバがデグスから目をそらした。ガタガタ震えてるし凄く怖がってるね……。


「御者のおじさんはどうしたのですか?」


 するとラーサがデグスに向けて問いかけた。言われてみれば確かに御者のおじさんの姿が見えないよ……。


「あぁあの塵か。さて、どうしたと思う?」

「まさか……こ、殺したの?」


 ブルックが青ざめた顔で聞いたよ。そんなこと考えたくないけどこの場にいないってもしかして……。


「ククッ確かに似たような物か」

「似たような、もの?」


 デグスが勿体つけたように答えてラーサが疑問符のついたような顔を見せたよ。


「そうだ。あの塵は愚かにも魔導銃なんてものを頼った。我ら魔狩教団からすれば許されざる愚行。故にただ殺すのではなくあの場で四肢を砕き森に放置しておいた。あの辺りは夜になると腹を空かせた魔物が徘徊する。あの塵は為す術もなく生きたまま食われ苦しんで死んでいくのだ。あ~はっはっは!」

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