第233話 魔力0の大賢者、は妹を助けたい――

「ちゅ~」

「あ、しまったファンファン――」


 寮を出た後ファンファンも一緒だったことに気がついた。


「君は帰った方がいいよね」

「ちゅっ!? ちゅ~ちゅ~!」


 そう声をかけると肩に乗ってるファンファンが僕にしがみついて離れたく無さそうに鳴いた。


 参ったな……でも時間がないのも確かだ――


「それなら僕から離れないでね」

「ちゅ~!」


 ファンファンがコクコクと頷いたよ。やっぱり賢い白綿ネズミだよねファンファンは。


「とにかくこのまま出て情報を頼りに攫われたラーサたちを――」

「一体どこへ行かれるつもりですか?」

「あ!」


 急ぐ僕の正面に眼鏡を掛けた知的な女の子が姿を見せた。この子とは寮に入った直後にも話をしている。確か風紀委員長のルル先輩だ。


「ルルさん。その急ぎの用事がありまして」

「急ぎ? どんな要件があろうともあなた達Zクラスの生徒は定められた範囲の外には出られない決まりです。今すぐお戻りなさい」


 眼鏡の縁に指を添えキツめの口調で言ってきた。やっぱりただ用事と言っても聞いてはくれないみたいだ。


「――実は、僕の妹が乗る馬車が襲われたという話を聞いて、それでどうしても助けに行きたいんです」

「――その情報は生徒の中でも我々のような委員会などのごく一部にしか知られていません。それなのに一体どこでそれを?」

「あ、いや、風の噂というか――」

 

 ま、不味いよ。流石にここでアリエルやイスナの名前を出すわけにはいかないもんね……。


「――噂?」


 キッと凄く疑り深い目で睨まれてるよ。参ったなこうしてる間にもラーサが……それに他にも攫われた子がいるらしいし、何よりイスナの話だとあの魔狩教団が絡んでるかもしれないようだし。


「ちゅっ! ちゅ~ちゅ~!」


 すると肩に乗っていたファンファンがルル先輩に向かって抗議するように声を上げた。


「う――」


 ファンファンの様子を見てルル先輩がたじろいだ。何かファンファンを見る目が輝いているような?


「と、とにかく情報元はともかくその件は学園の先生たちも既に動いている事。貴方のような学園に入って間もない新入生が首を突っ込むことではありません!」

「言ってることはわかります。ですが僕にとって大事な妹の危機なんです。黙って指を咥えて見ているわけにはいかない」

「それで貴方が今出ていってどうなるのですか? 下手に手を出して逆に捕まったりしたら? 却って迷惑になるのですよ」


 眼鏡を直すようにしながらルル先輩が諭すように言ってきた。


 確かに今の僕はまだ子どもだ……でも――


「――ラーサたちを攫ったのは魔狩教団という話です。僕はかつて魔狩教団とも相手したことがある。僕なら攫われた皆を見つけるのに役に立てると思うんです」

「――ですが貴方は魔力が0という話ではありませんか」

「それは……」

「前はたまたま運良く上手くいったのかも知れませんが、だからといって今回も上手くいくと考えるのは甘いですね。むしろその事が奢りに繋がっているのなら逆に危険です。風紀委員長として決して認めるわけにはいきません」

  

 どうしよう……逆効果だったようで却って気持ちを頑なにさせてしまった。このままじゃ……。


「やれやれ一体何をしてるかと思えば面倒事はゴメンだと言っておいただろう」


 ふと、横から声が割り込んできた。見るとイロリ先生が面倒くさそうな顔で藪から出てきたよ。


「イロリ先生……」

「マゼル。自習だと言っておいただろう。それなのにどうしてこんなところにいる?」

「それは……」

「先生。ここにいるマゼルは勝手に寮を出て例の事件に首を突っ込もうとしていたのです。一体どこで知ったのかは知りませんが妹を助けたいと……そんな無鉄砲な真似許せるわけがありませんが」


 僕が答える前にルル先輩がイロリ先生に伝えた。


「チッ、ただでさえその話で面倒な事言われたばかりだってのに」

「――そういえば先生はどうしてこちらに?」


 後頭部をさすりながら気だるそうに口にするイロリ先生にルル先輩が聞いた。そういえば寮からは離れていた筈だね。


「休憩になったから一旦出てきたんだよ。本校者は息が詰まって仕方ない雰囲気だったからな。それでマゼルだが――ルルの言うとおりだ。認めるわけにはいかんな」

「そ、そんな……」


 イロリ先生にまで目の前で禁止されてしまった……一体どうしたら――


「ま、それでも助けに行くって言うなら止めはしないが」

「ちょ、先生!」

「――だがルールを破ってそんな真似してみろ。お前は間違いなく退学になるだろう。しかもお前だけじゃない連帯責任でクラスの全員が処罰されることになるだろうさ。全員退学かもな。ま、それならそれで俺は面倒から解放されるが」

「そんな……」


 イロリ先生から更にダメ押しの一手が……僕一人ならともかく皆にまで迷惑がかかるなんて。


「――先生の言うとおりです。ここで問題を起こせば貴方一人で済む話ではなくなります。それが嫌ならすぐに寮に戻りなさい」

「うぅ……」

「ちゅ~ちゅっ! ちゅ~!」

「そ、そんな目で見ないで! 駄目なものは駄目です!」


 ファンファンが必死になって訴えてくれているけど風紀委員が折れる気配はなかった。


「ま、諦めるんだな。言っておくが山から・・・出てそんな真似してみろ、俺だって面倒見きれないからな。わかったら早くもどれ少しでも山の外に出るのは許さんからな」

「だけど――え?」

 

 イロリ先生の発言に頭を抱えそうになった僕だけど――でも今のって……。


「わ、わかりました。山から出ません! それでいいのですね?」

「……あぁ」

「わかりました! ありがとうございます!」


 僕はイロリ先生に御礼を言ってその場を離れた。ルル先輩は妙な顔をしていたけど――とにかく皆に迷惑を掛けないようにラーサたちを助けないと!

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