第230話 魔力0の大賢者、テストまで皆と勉強する
「ヤバい――テストは来週じゃねぇか。すげぇ不安だぜ……」
アズールが一人頭を抱えているよ。気がついてみれば確かにテストは迫っている。
「大丈夫だよ。今もちょっと仮で問題だしてみたけどアズールも点数が上がってるし」
僕はアズールに自信を持ってもらおうと思ってそう伝えた。
実際点数は上がってるしね。当初はあの纏めた教科書を見てもわからないなんて悩んでいたけど、アズールは一度コツさえ掴んでしまえば覚えは早かった。
これならテストは先ず問題ないんじゃないかな。
「本当アズールって意外と臆病なのね。私なんてすっかり自信をつけましたわ。フフッこれは勝ったも同然!」
メドーサは勝ち誇ったように高らかに笑った。彼女は先ず気持ちを上げることが大切だった。
だから最初は少し難易度を下げてでも解ける問題を解かせていき徐々にテンションを上げていくと気分も乗ってきて勉強も捗っていったんだよね。
「二人がここまで出来るようになったのもマゼルのおかげだな。実際俺もマゼルのおかげで苦手科目が大分克服出来た」
「マゼルくん。す、凄いです……」
「いや! 皆で頑張ったからだよ! 僕なんて大したことしてないし!」
アズールとメドーサにしてもそうだけど皆が得意科目を苦手な人に教えるって形が上手くはまったんだ。
「うん。これはチームワークの勝利だね!」
「チームワークねぇ。だけど一部それに加わらなかったのもいるけどな」
アズールがメイリアを見ながら言った。
「――前にもいいましたが私は貴方達の召使いではありませんとお答えします」
「いや皆そんなつもりはなくてクラスメートなんだからお互い協力していこうよってことなんだけど……」
ドクトルが苦笑交じりにメイリアに言った。皆で勉強している間も彼女は輪に入ることはなかった。
「メイリアちゃんはただ不器用なだけかもよ。何か勉強している間もこっちをチラチラ見ていたし本当は混じりたかったのかも」
「そういえばリミットやマゼルは何度か声を掛けてたわね」
リミットの話を聞いてメドーサが思い出したように言った。
確かに時折視線は感じてたんだよね。だから僕も何度か誘ったんだけど何故か僕に対する視線は険しくもあったんだ。一体何でだろう? もしかして前の試合の件で何かしちゃったんだろうか……。
「何だよ。だったら素直にそう言えばいいじゃん」
「大丈夫だよメイリアさん。今からでも間に合うからね!」
「勝手におかしなイメージをつけないでくださいとお答えします」
アズールとドクトルが改めてメイリアについて触れていたけど、ツンっとした様子でメイリアが答えそっぽを向いてしまったよ。
「あれが俗にいうツンデレって奴ね」
「今のところデレは全くないけどな」
少し離れた席でメドーサとガロンがやれやれといった様子で言っていた。
ツンデレって僕には良くわからないけどね。
「シアンみたいにもっと素直になればいいんだよ」
「……別にそんな――」
リミットがシアンの側に寄って語りかけていた。言葉数は今も少ないけどリミットは良くシアンに話しかけていたからね。
そのおかげか少しずつでもシアンとも喋るようになっていた。
うん。クラスの皆もかなり打ち解けてきていい感じに想えるね。このまま無事テストも乗り切りたい、いや乗り切るんだ。
「…………」
僕が改めてテストに向けて決意を固めていると教室のドアが開き無言でイロリ先生が入ってきた。
それ自体は珍しい事じゃないんだけどなんだろう? 妙に神妙な面持ちな気が……。
「――今日は自習だ」
「今日はじゃなくて今日もだろ?」
「大丈夫ですよ。先生の教科書のお陰で勉強も捗ってますから」
イロリ先生が今日の授業について言うとアズールが茶化すよに返しドクトルはお礼を込めたような対応をする。
「……フンッ――」
イロリ先生は鼻を鳴らすとすぐに教室を出ていこうとした。
「先生。あの、何かありましたか?」
やっぱり何かおかしい――そう思った僕は思い切って先生に聞いてみることにした。
「――別に何もない」
「でもいつもと様子が違います。何かトラブルがあったとか?」
「……とにかく自習だ。余計なことはしないで黙ってろ」
そう言い残して先生が教室を後にした。
あの言い方やっぱり妙だ。余計なことはするなって僕たちがなにかしてもおかしくない事態が起きてるってことじゃないのか――
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