第229話 追い詰めたのはどっち?

side アン


 皆で協力したおかげで魔狩教団の殆どを倒す事が出来た。


 残ったのはリーダーらしき男が一人だけどこっちにはラーサやグリンもいる。私だって魔法で援護出来る。


「さぁいい加減観念して諦めたまえ!」

 

 シルバが残った一人に降伏を求めた。何か凄くやってやった感が出てるけど彼は何もしてないよ。


「観念だと? 私も――舐められた物だな!」


 すると男が懐から筒状の何かを取り出し、かと思えば轟音が響き渡りグリンが魔法で生み出した蔦が消え去った。


「な! 僕の魔法が!」

「フンッ。まさかこのこのデグスが自ら動くハメになるとはな」


 仮面の男がイライラした口調で言った。そして名前も飛び出した。デグスという名前なんだ……。


 だけど持っているアレは? 筒状で後ろから煙が上がっているのが見える。


「それは――知ってますわ! 確か魔導銃という魔導武器の一つですわ!」

 

 フレデリカが思い出したように叫んだ。そんな武器をこのデグスが? あれ、でも――


「呆れましたね。魔法を狩る教団が魔導具なんかに頼るなんて」


 ラーサがキツイ口調で言い放った。そうだ違和感を覚えたのはそれがあったから。


 だって魔法を扱うのを許せないなんて言ってるのに魔導具に頼ってちゃ道理に反している。


「馬鹿が。我らが貴様らのような愚かな連中が作った魔導具に頼るものか。これは火銃――火薬を利用した武器だ」


 デグスが得意げに語った。それにしても火薬って――確か今ではほとんど使われる事がなくなった物質だよね。


「まさか火薬なんて物を今更武器として利用してるなど思わなかったのだよ」


 グリンが言い放つ。だけどどこか悔しそうに思える声だった。


「ふん。その様子だと多少は火薬の知識があるということか」

「学園に通うための勉強で学びました。古くは火薬で歴史が変わるとまで言われていたとか――」


 そうなんだ。正直私は火薬についてあまり勉強してないんだよね。やっぱりラーサは頭がいい。可愛いし魔力も高いし非の打ち所がないよ。


「なるほどな。ならばなぜ火薬を使った技術が廃れていったかわかるか?」

「――火薬は確かに期待されていた。ですが火薬は魔力の源である魔素との相性が悪く決して結びつくことがなかった――結果的に効果は限定的で伸びしろが期待できないとされた、そう記されています」


 ラーサの説明を聞きデグスが拍手を始めた。もっとも浮かべた笑いはどこか小馬鹿にしているようでもあるけど――


「学園に通うというだけあって頭はそれなりということか。ククッ、それにしてもやはり神は正しい。人が身の程知らずな道具を手にしないよう火薬一つとってもしっかりと制限を掛けた。だが! 愚かな魔法使い共は火薬が使えないとわかった途端魔法の研究を始め神のみが許された奇跡の力を我が物顔で利用するようになった!」


 突然デグスが怒りを顕にし魔法使いを批判し始めたよ。そんなこと私達に言っても仕方ないのに……。


「愚かしいのはどっちですか。道具にいいも悪いもありません。使い手次第で毒にも薬にもなります。事実火薬を使ったその火銃は貴方が手にした為に毒となりました!」


 ラーサの凛とした声が耳に届いたよ。そうだ、道具は結局道具でしか無いんだ。使い手次第で良くも悪くもなる。


「毒? 違うな。これは薬だ。そう愚かな魔法使い共は神にとって病魔と同じ。神を蝕む病魔を駆逐する為に我らは力を振るう」


――駄目だ。言ってることがメチャクチャだけどこの教団からすればそれが正論なんだ。思考が一方通行すぎてこっちの理屈なんてまるで通用しない。


「話しても無駄なら――舞え風の燕スワローウィンド!」


 凄い。ラーサは話しながらも詠唱を完成させていたんだ。ラーサの魔法で生まれた複数の風の燕がデグスに襲いかかる。


「フンッ! 馬鹿が!」


 だけどデグスはもう一つ火銃を取り出し両手で連射した。風で出来た燕が撃ち抜かれていく。


「私の魔法まで――まさか魔切!?」


 ラーサの口からそんな単語が飛び出した。でも魔切って?


「なるほど流石に知っていたか。だが随分と驚いているようだな。さては魔切という言葉に惑わされたな。残念だがこの技術は道具を選ばない。やろうと思えばこの火銃でも魔法を撃ち抜ける」


 デグスが得意げに語った。魔法を撃ち抜く――それで魔法が消えたの?


 しかもデグスはすぐさま火銃に何かを詰め直していた。


「くっ、弾丸を込めるのも早い!」

「当然だ。球切れを期待したなら残念だったな」

 

 弾丸――火銃を扱うにはそれが必要なんだ。でも、既にデグスは新しい弾に変えてしまった。


「どうやら再び形勢逆転といったところか」

「どうでしょうか?」


 確かにデグス一人のせいでまた追い詰められてしまってるよ。だけどラーサが期待しているのはきっとアネ。


 外の仲間もアネ一人で片付けていた。その力があれば――


「しかし気に入らないなその顔。まだ切り札がありそうな目だが――」


 その時、馬車の扉が勢いよく開かれ何かが投げ込まれた。


 あれ? 今一体誰が扉を開けたの? それに、今投げ込まれたのって――


「アネ!」

「ふん。これが外の連中を倒したのか。こんな小さな蜘蛛もどきがな」

 

 デグスがひょいとアネを持ち上げてあざ笑う。


 どうしよう。あの様子だとアネは完全に意識を奪われている。


「さてこれでお前らの切り札もなくなったわけだ」


 そう言ってデグスがアネを地面に落とし一本の火銃をアネに向けもう一本の火銃を私達に向けた。


「お前たちには大人しく付いて来てもらうぞ。このアネとかいう化物も始末されたくなければお前も大人しく従うことだ――」

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