第224話 馬車に乗ってきた令嬢
side アン
「同い年ですから私の事はさん付けでなくても大丈夫ですよ」
「え? で、でも失礼じゃ?」
「そんなことないよ~それに学園では身分を振りかざすのは禁止にされてると聞きますからね」
そういえば私も話で聞いていた。だから貴族や平民で区別したりしないって。
「そ、それなら私もアンって気軽に呼んで貰ってもい、いいから!」
「うん。宜しくねアン」
「あ、うん! 宜しくねラーサ!」
良かった。大賢者様は偉大な方だと聞いてはいたけど妹のラーサもとてもフレンドリーでホッとしちゃった。最初に会えたのが彼女で良かった。
「ほらアネも挨拶」
「何だい面倒だねぇ全く。私はアネだよ。ま、宜しくねアン」
従魔のアネからも挨拶された。人の言葉が喋れるなんて相当高位の魔獣なんだろうなぁ。それなのに従魔に出来るなんて凄いよ。
「あ、馬車が止まったね」
「うん。ここでも学園に向かう子が乗るのかも――」
そういえば既にマナール王国の国境は越えている――だとしたらここは王国の西に位置すサーペント王国かな。
あの国は縦に長いのが特徴だ。だから地域によって学園の管轄が分かれているらしい。
今から乗ってくるのは当然私達と同じ東の魔法学園に向かう子たちなんだと思う。
「やれやれそれなりの馬車といったところかしら。これなら家の馬車の方が快適ですわね。あなた達もそう思いますわよね?」
「「「御意!」」」
な、何だか凄い子が乗ってきたよ。金色のゴージャスな髪を靡かせてこっちに近づいてくる。
もしかして化粧してるのかな? 紅も引いていて凄く大人びた感じがするよ。
それに何か彼女のお付きのような女の子を二人率いているし――
「あら? どういうことかしら。何故サンドール公爵家一の才女とも噂されるこの私、フレデリカ・サンドールが乗る馬車にこのような野暮ったい芋娘が乗っているのかしら?」
「はい?」
「へ?」
その子、フレデリカは私を見下ろしながら開口一番にそんなことを言ってきた――ど、どうしよう。
今公爵って言っていたし下手に逆らっちゃきっと駄目な奴――
「初対面でそれは失礼じゃありませんか」
「ら、ラーサ!」
「は? 何かしら貴方は?」
「貴方と同じ学園に通うラーサです。そしてこちらはアン」
「ふん。そんな畑から這い出てきたような田舎娘に興味はありませんわ」
「それが失礼だと言ってるのです」
「ら、ラーサ私は気にしてないから」
「ダメです。こういうのはケジメですから」
「ふん。あなた達あれを」
「「「御意!」」」
何かあまり怒らせちゃいけない気がしてラーサに気持ちを伝えたのだけど、ラーサは納得していないみたいで――かと思えばフレデリカが他の女の子に命じて小さなビンを取り出した。
「田舎臭くてたまりませんわ」
「キャッ!」
かと思えばハンカチを口元にやりつつフレデリカが私に何かを掛けてきた。
「ちょ! 何してるんですか!」
「あら? 怒られる筋合いではなくってよ。これはそこの庶民では一生かかっても手に入らないような高級な香水ですもの。それを掛けてあげたのですからね」
「だからって急にそんなものを掛けていいわけないじゃありませんか!」
「あ、で、でもいい香りだし、そのありがとうございます!」
「えぇ!」
何か思わずお礼を言ってしまった。高級って聞くとありがたい気がしてしまって……。
「ふんそれが庶民の正しい反応というものよ」
はは、一応男爵家の生まれではあるけど、そんなに変わりないものね。
「ソレに比べたら貴方は少しはマシかも知れませんが」
今度はフレデリカがラーサをまじまじと見ながら語りだした。
「それでも、精々どこぞの田舎貴族といったところかしらね。どうせいなかーの姫としてチヤホヤされて育ったような世間知らずなのでしょうからはっきりと教えてあげますわ。私はサンドール公爵家の――」
「たく、さっきからうっさいねぇ。大体今さっきそれを言ったばかりだろうさ。同じことを繰り返すなんて頭の悪そうな牝だねぇ」
「は! あ、貴方この私を、私、を、ひ、ひいぃぃい! 蜘蛛! 蜘蛛ですわ蜘蛛がいますわーーーーーー!」
ラーサの肩に乗っているアネを見てフレデリカが叫びだした。悲鳴を上げて尻もちをついてしまっています。
「何なのですかソレは! だいたい何で蜘蛛に女が、お、悍ましい!」
「ラーサ。命じてくれればいつでもあいつの首を撥ねてあげるさね」
「それは駄目ですよ! もう。あの、この子はアネと言って今は私の従魔をしてます」
「じゅ、従魔? つまりそいつを学園に連れて行くと? 冗談ではありませんわ! さっさと捨ててしまいなさい!」
フレデリカはギャーギャー騒いでとんでもないことを言い出してます。うぅ、折角親切なラーサに会えたと思ったら一気に先行きが不安になってきました。
「あなた達もボーッとしていないでなんとかしなさい!」
「御意!」
フレデリカに言われ、青い髪を後ろで纏めたキリッとした女の子が近づいてきたよ。ど、どうするつもりなんだろう?
「――その、実はお嬢様は蜘蛛などの足の多い生物が苦手で……出来れば見えないようにしては頂けませんか?」
あれ? もしかして怖い人なのかと思ったら、凄く丁重な話し方をする子だったよ。
「どうか――」
「わ、わかりました。アネ。足を――」
「チッ、私が何でそんなマネ」
「そう言わないで。それにそっちの足も自慢なんでしょう? 綺麗な足だもの」
「――フン。仕方ないねぇ」
お付きの女の子に言われてラーサがアネに何かお願いしていた。何かなと思ったけどアネが私には理解できないような言語を口にし、足が光って蜘蛛の足だった箇所が人の足に変わったんだ。
「これで満足かい」
「す、すごい! こんな真似が出来るなんてその従魔は一体――」
お付きの子がずいぶんと驚いていた。私も驚きだけど、やっぱり大賢者様の妹だけあるかも――
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