第223話 フレイク男爵家の娘

side アン


「うぅ、緊張してきたよ~」

「大丈夫よ。アンならきっと学園でも上手くいくわ!」

「ネェちゃん学園都市のおみやげ頼むな!」

「アンよ。お前は我がフレイク家の誇りだ! 学園でしっかり努め立派な魔導師になるのだぞ!」


 き、期待が重いのです。私は地方領であるフレイク男爵家で生まれ育ちました。小さな村を幾つかと僅かな農場のみを治めている本当に小さな領地です。領主であるお父さんが自ら畑仕事に精を出すぐらいの領地なのです。


 ですから私も将来は畑を耕してこの領地で暮らしていくのかなと思ってました。ですが私は生まれた時から魔力が高い方で9歳の頃には魔力が320にまで増えてました。


 それがきっかけでお父さんが騒ぎ出し、その上、東の魔法学園に10歳から学べる幼年魔法学園が新設されると知り学園に向けて手紙を認めたのです。


 そんなことで私が選ばれるわけ無いと思っていたのですが――学園都市の理事長がわざわざやってきて私の話を聞き、新設される幼年学園の入学を認められたのです。


 そして今日――私はいよいよ学園に向けて旅立つのです。どうやら学園側の用意した馬車が迎えに来るらしく緊張しながら私は待ってました。


 その間、私よりもずっと浮かれている家族から激励されたり心配されたり、弟からはお土産をせがまれたり、更に村からも駆けつけた人々がどんどんと増えていって色々大変でした。


 うぅ、でも期待されればされるほどプレッシャーが……。


「お待たせいたしました。アン・フレイク様ですね?」


 ついに学園から馬車が到着しました。お、大きい馬車だよ。これに乗っていくんだね。


「頑張ってアン!」

「フレイク家期待の星!」

「「「「「フレーフレーお嬢様ーーーー!」」」」」


 ひぃ~何だか恥ずかしい! 御者さんも目を点にさせているし。


「えっとでは後ろから詰めていく形になりますので席は後部座席からご利用ください」

「わ、わかりました。その何かすみません」

「いやいや領民から愛されているのですね。いいことだと思いますよ」


 うぅ、何か凄く気を遣われた気がするよ。


 馬車に乗って言われたとおり私は一番後ろに向かった。あ、どうやら先に乗ってる子がいたみたいだ。


「アネ。仕方なく連れていきますが学園でも大人しくしてなければ駄目ですよ」

「判ったって。はぁご主人様に会えるのが楽しみだねぇ」

「だから――あ、ご、ごめんなさい」


 何かち、小さな蜘蛛? 蜘蛛の上に可愛らしい女の子が乗ったような何かと話してる少女に思わず呆気にとられてしまった。


 もしかしてこれって――従魔? 馬車に普通に乗ってるなら危険な魔物とか魔獣なわけないもんね。


 私を見て従魔の飼い主と思われる女の子が謝っていた。それにしても――綺麗な子だなぁ。


 太陽の下ですくすくと育った小麦のように美しい金色の髪。それにくりんっとして宝石のような輝きも秘めた碧眼。


 衣装も自分が恥ずかしくなるぐらいきちんとしてるし、うぅ、この時点で格差を感じてしまう。


「あの、貴方も魔法学園に?」

「は、はい! フレイク男爵家のアンといいます」

「アンさんだね。私はラーサ。ラーサ・ローランです」


 へぇ。ラーサ、ローラン? ローランって! まさかあの――。


「大賢者の再来が育ったというローラン伯爵領のお嬢様!?」

 

 驚きです。ここマナール王国では語り草となっている伝説の大賢者――村にも吟遊詩人がやってきて大賢者の詩を披露していたものです。


「はい! 偉大なる大賢者たるマゼルお兄様は私のお兄様なのです」


 しかも、いや名前を聞けb当然かも知れないけどラーサは大賢者様の妹なようで、い、いきなりそんな大物と席が近くなるなんて、うぅ、更に緊張が――


「へぇ。やっぱり流石主様だねぇ。有名で鼻が高いよ」

「へ? 主様?」

「い、いえ! アネは私の従魔ですがお兄様は私の尊敬するお兄様ですので! 主の兄はやっぱり主なのです!」

「ま、そういうことにしておくさね」


 話を聞くにやっぱりこの子は従魔なんだね。アネって言うんだ。でも主の兄は主、そういうものなのかな。

 

「でも良かった。どんな子と一緒になるかなってちょっと不安でもあったのですがアンさんとは仲良くなれそう」

「え? わ、私とですか?」


 驚いちゃった。よりにもよって私みたいな地味な女の子と仲良くだなんて。


「うん。だってあんなに皆から愛されているんだから――」


 あ――さっきの皆とのやり取り見ていてくれたんだ。私は少し恥ずかしかったけどそういう風に見てくれるなんて――


「私こそ最初は不安だったけどラーサさんのような方と知り合えてとてもハッピーです!」


 最初は緊張したけど話している内に不安もどこかへ吹っ飛んでしまった。


 そして私はラーサと同じ列の席に座って色々とおしゃべりを楽しんだんだ――

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