第222話 ラーサ出立の日

 いよいよこの日が訪れました。私は今日学園都市に向けて出発します。


 新たにできた制度でお兄様が通われている学園とは別に十歳から学べる特別学園が建設されました。どうやら正式に幼年学園と名付けられたそうです。ここで二年通いその後は正式に魔法学園に入学する形となります。


「それでは行ってまいります。お父様お母様」


 見送りに出てくれていたお父様とお母様に挨拶します。本日学園に向かう為、色々と準備を手伝ってもくれました。


「うむ。マゼルにも宜しくな」

「ラーサも手紙をお願いね」


 幼年学園は学園本校舎と隣接して建ってるそうです。それなら学園でお兄様とすぐに再会出来るかも……あぁ愛しのお兄様。勿論お父様のお言葉もお伝えしますが私自身お兄様との再会が待ち遠しくてたまりません。


 お母様からは手紙についてお願いされました。そういえばお兄様からも既に何通か届いておりました。私も何度も何度も読み返したぐらいです。



「お姉ちゃん頑張ってね~」

「うん。行ってくるね」


 はぁ、ライルもとても愛らしいです。頭を撫でて暫くのお別れを済ませました。学園には年二回大きな休みがあるそうなのでその時には帰郷が認められます。


 それまでは家族ともお別れですね。


「荷物はこれで終わりですか?」

「あ、はい。ありがとうございます」


 荷物運びを手伝ってくれた御者様から声が掛かりました。学園側が手配してくれた馬車にのって学園に向かうことになります。


 特殊な魔法の施された大型な馬車ですね。そういえばお兄様からの手紙で学園都市は魔導技術が凄く発展してるとありましたね。


 魔導列車という特別な乗り物が走っていて移動がとても早いのだそうです。想像がつきませんがこの馬車も特別仕様なのかもしれません。


「それでは、あ、そういえばアネは?」

「うむ。そういえば見ないな。領内を見て回ってくれているのかもしれない」

「そうですか……」


 そして私は御者に促され馬車に乗りました。私も鞄を一つ持っていたのでそれを隣に置きます。


 ――アネには少し強く言い過ぎたかな?

 アネがお兄様にベタベタすることには正直思うところが多々ありますが、アネのおかげで助かったことがそれ以上にあります。


 以前魔狩教団が領地に現れたときにもアネが足止めをしてくれたおかげで被害も最小限に抑える事が出来ましたし今も領地の為に色々と動いてくれてます。


 だから私も認めているところはあったのです。勿論お兄様との事は別ですし決して認められませんが。


「だけど、学園に連れていけはやっぱり無茶ですからね……ですがもう少しやんわりと説明しておくべきだったかな」

「気にすることないさね。しっかり着いてきてるからねぇ」

「はい?」


 あれ? 空耳でしょうか? 何か今アネの声が聞こえたような。でも、馬車はもう動いていますよね?


「空耳かな?」

「それよりちょっと出してくれない? ここ狭くってたまらないさね」

「空耳じゃなかった!?」


 これは間違いありません。しかも私が持ってきた鞄の中から聞こえました。


 何だかよくわかりませんが私は鞄を開き中を確認しました。


「ふぅ。全く暗いのはいいけどやっぱり狭すぎなのはねぇ」

「え? え? え? あ、アネ?」

「よっ!」


 そもそも何でこんな小さな鞄からアネの声が? と思いましたが中にいたのは鞄に収まるぐらい、そう私の肩の上にも乗れるぐらいの大きさの小さなアネ、でした。声と面影からそう感じたからで本当小さくて見た目は幼くなってますが……。


「一体どうなってるのですか?」

「フフッ、驚いたかい? これも私の力なのさ」

「力――つまり小さく?」

「う~んちょっと違うけど、まぁいっか。とにかくこれで一緒に学園とやらに行けるだろう?」

「いやいやいやいやいや! そんな簡単な話ではないですしそもそも領地の事はどうするんですか!」

「それなら問題ないよ。ま、仕方ないね。実はあたしは分体なのさ。本体と意識を共有したね。私達アラクネは並列思考が可能でね。それを利用したのがこれ。本体から生まれた分身があたしってことさ」


 ぶ、分身? つまり本体は領地に残ってるということですが……。


「まぁ分身のあたしは見ての通り小さいし本体より力は落ちるけど、それでもそこいらの魔物にやられたりしないさ」


 アネが何故か拳を打ちながらアピールしてきました。何の意味があるかはわかりません。


「というわけだから宜しくさね」

「いやだから、幾ら小さくなっても学園は無理です!」

「そんなことはないだろう? あたしだってちょっとは学園について学習したけど、従魔がいるなら同伴可能だった筈だろう?」

「え?」


 た、確かに学園の案内にはそんなことも書かれてましたが、というかいつの間にか読んでたのですかもう――


「ですがアネはお兄様の従魔では?」

「本体はあくまでそうさ。だから仕方ないから分身のあたしはあんたの従魔ってことにさせておいてあげるさね」

「上から目線!? いやだからって!」

「でも、もうここまで来ちゃったしねぇ。まぁいいじゃないかい。旅は道連れというだろう?」


 言うだろうとかそんな勝手に! それからアネとのやり取りは続きましたが、途中の休憩でアネが勝手に従者に従魔だと伝えてしまい、なし崩し的に一緒に連れていくことになってしまいました。うぅ……。

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