第221話 ライルが皆を守る?
最近はこの手の馬鹿もすっかり見なくなったんだけどねぇ。こう言った手合いは忘れたころにやってくるのかねぇ。
「貴方達! ここが偉大なるマゼルお兄様が治める領地と知っての狼藉ですか!」
するとラーサがキリッとした顔でニヤニヤした賊連中に言い放ったね。
「いや領主はマダナイ伯爵だろう?」
「いずれお兄様が領主になるのですから同じことです」
「そもそも主はこんな狭い土地に収まる器じゃないしねぇ。世界を手中に収めし御方さ」
「ムッ、狭いは余計ですが概ね合ってます!」
あたしが主様について補足するとラーサも若干ムキになって言葉を続けたね。こうやってすぐに張り合ってくるところはまだまだ幼いねぇ。
「何だかよくわからねぇが残念だったな。確かに俺達だってこの地に化け物みたいな大賢者がいることは知ってる」
「同時に今は学園で寮生活をおくっていて、ここにはいないってこともな!」
何だか得意げに口にして揃って馬鹿笑いを始めたよ。つまりこいつら主様がいない間を狙ってやってきたってことかい。なんともセコい連中だね。
「お、お姉ちゃん達を虐めたら承知しないぞ!」
おやおやなんてこったい。主様の弟のライルが私達を守ろうと前に出てきてくれたよ。この辺りが主様の血なのかねぇ。
全く将来が楽しみだけど、今はまだ実力が追いついてないねぇ。
「へ、何だこのガキ。俺らに逆らおうってか? 舐めた口聞いてんじゃねぇぞ!」
賊の一人が大きく前に出てライルに向けて蹴りを放ったね。そうかいあんたらは主様の弟に手を出すんだね。
「だったら敵だねぇ」
「は?」
あたしはライルの前に立ち男の蹴りを受け止めたよ。
「アネお姉ちゃん!」
「ふふっ。ライルありがとうね。小さいのにその心肝の強さはしっかり主様譲りさね。だけど、ここはあたしに任せて――おきな!」
あたしが逆に蹴りを見舞うと男の首からゴキッといい音が鳴った。そのまま真横に吹っ飛んでいき木々をなぎ倒す音が聞こえた。
「ありゃ。随分と脆いね。まぁ死んじゃいないと思うけどねぇ」
主様はあまり殺しとか好きではなさそうだからねぇ。そう考えたら私もすっかり丸くなったもんだよ。
「な、何だこの女つえぇ!」
「き、聞いてないぞこんなの!」
やれやれ。これでもあたしは主様の最初の従魔なんだけどねぇ。ま、元がアラクネであることは一部の間でしか伝わってないようだけどね。
「こうなったらあっちの女が先だ!」
「大賢者の妹らしいがまだガキだからな!」
「大人しくしやがれ!」
「アネお姉ちゃん! ラーサお姉ちゃんが!」
「あぁ、問題ないさ」
賊共がよりによってラーサを狙いに行ったよ。でもね、今ちょっと戦っただけで判ったよ。こいつらは雑魚すぎるね。
「浮き上がる土塊、落ちる衝撃、重厚なる巨岩――ロックフォール!」
ラーサが詠唱を終えると奴らの頭上に土塊が集まっていき巨大な岩となって降り注いだ。
「「「「ぎゃぁああぁあああぁああ!」」」」
ありゃりゃ賊の悲鳴が響き渡ってあっさり全滅さね。そういえばラーサの奴、最近になって土魔法も使えるようになったと言っていたね。これで風、火、雷、土と四種類もだよ。いや光魔法もちょっとは使えると言っていたから五種類かい。
覚えた魔法の種類だけなら大したものだねぇ。
「しかし、まぁやりすぎって意味じゃあんたもそんなに変わらないじゃないのさ」
陥没した穴の中で痙攣してる連中を見て正直な感想を伝えたよ。
「そ、そんなことはありません! ぽら皆息してますよ!」
「あたしの相手だって息はあるよ」
口から泡を吐いてるし目も白くなって手足が変な方を向いてるけどしっかり生きてるからね。
「もうお姉ちゃんたち喧嘩はメッ!」
あたし達が言い争っているとライルがトコトコやってきて叱って来たよ。やれやれライルには敵わないねぇ。
結局盗賊はあたしが糸で縛って町まで運ぶことになったよ。冒険者ギルドに引き渡したらドドリゲスが出てきて随分と感謝されたねぇ。
「この連中、最近になって出没していた盗賊ですよ。大賢者のいぬ間に少人数の相手ばかり狙ってきていて中々面倒だったので助かります」
どうやら本当にコスい盗賊連中だったようだね。そんな奴らがあたしたちを狙おうなんて百年早いよ。
「アッハッハ。流石ラーサ。大賢者マゼルの妹だ。将来は大魔導師間違いなしだね」
屋敷に戻ると噂を聞きつけたのか主様の父親マダナイが感嘆していたねぇ。
「お父様は気が早すぎます」
「そうか? うむ。それにアネもありがとう。マゼルの従魔としてこの地を守ってくれてとても助かってる」
「えぇ。アネは裁縫も得意ですからメイド達も色々教えてもらえると喜んでますよ」
あたしも妙に持ち上げられちゃったね。主様の家族は実際人の良い連中さ。あたしが丸くなったのも主様とその家族のおかげだろうね。
でもね――
「アネ。私は明日には出発致します。その間この領地のことは宜しくお願いしますね!」
それから暫くしてラーサが部屋にやってきて釘を刺すように言ってきたよ。
「――そのことだけどさ。あたしも一緒にその学園に行けないものかねぇ?」
「は? む、無理に決まってるじゃありませんか! アネが行ったら目立ちますし許可もおりません。それに領地のことはどうするのですか!」
何かラーサにくどくど言われてしまったよ。まぁ確かに領地のことはあるからねぇ。
う~ん、そうなるとやっぱり――
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