第220話 その頃のローラン領

sideアネ


「はぁ。退屈だねぇ」


 最近はどうも張り合いがない。御主人様もいないし、最近は領地も平和だしねぇ。


 スメナイ山地も人が増えてちょっとした町ぐらいにはなっているしねぇ。冒険者も中々やるようになったから敢えてあたしが行くこともなくなってしまったよ。


「お姉ちゃんみてみて~」

「あぁ。いいよ」

 

 ライルがトコトコと歩いてきて私にアピールしてきたよ。とても可愛らしいよね。今日は子守も兼ねて近くの森にハイキングに来てるのさ。

 

 何だか平和だけど御主人様の弟は可愛いくて小さいから癒やされるねぇ。


 そのライルは木製の剣で構えをとって近くの木に向けて打ち込みをしてるよ。


 ふむ。あたしは剣は詳しくないけど、それでもこの年にしては動けてる気がするね。


 見たところ自然と魔力で武器も強化もできてるよ。やっぱり御主人様の弟だけあって筋がいいね。


「どう? アネお姉ちゃんどう~?」

「うんうん。よく動けてるよ。流石だねぇ」


 両手をパタパタさせたライルが駆け寄ってきて聞いてきたよ。頭を撫でて褒めてあげたら目を細めて小動物みたいだねぇ。


 ライルを膝の上に乗せて構ってあげる。はぁ、人間の子どもがこんなに可愛いとはあたしも思わなかったねぇ。


「本当に可愛いねぇ。食べちゃいたいぐらいだよ」

「な、なな、何を言ってるんですかアネ!」


 あ~あ余計なお守りがもう戻ってきたかい。


「ラーサお姉ちゃん。アネお姉ちゃんに褒められたんだよ~」


 ライルがトコトコとラーサの下へ駆け寄っていったよ。するとラーサがギュッとライルを抱きしめてあたしを睨んできたね。


「アネ! ライルはお兄様の弟なんですよ。それを食べるなんて!」

「はぁ。あんたこそ何言ってるんだい。食べちゃいたいってそういう意味じゃないよ」

「――本当ですか?」

「当たり前だろうさ。大体あたしはもう人を食べてないからねぇ」


 御主人様と出会ってから人間の料理っていうのの味を覚えたからねぇ。あれを食べたらもう人なんて食いたいと思わないよ。お酒も美味しいしねぇ。


「勿論別な意味でなら味見してみてもいいかなと思うけどねぇ」

「何しれっととんでもないこと口走ってるんですか!」


 ラーサが顔を真っ赤にさせて叫んだよ。


「う~ん。あんたは一体今のをどんな意味に捉えたんだい?」

「へ? そ、それはその――」


 更に顔を紅潮させて湯気でも吹き出しそうな勢いだねぇ。


「お姉ちゃん部屋でお兄ちゃんの絵やお人形を抱きしめてるみたいにお顔が紅いよぉ?」

「な! ら、ライルそういうことはあまり外では!」


 やれやれ。部屋で一体何をしてるんだかねぇ。


「それよりもライルお腹すいてない?」

「お腹ぁ? ん、ぺこぺこ~」

「なら一緒にお弁当食べようね。アネも仕方ないから食べさせてあげますよ」

「やれやれ。もっと素直に食べてくださいって言えないもんかねぇ」

「何で私がお願いする立場なんですかもう!」


 文句をいいつつも、バスケットをだして昼食の準備をしてくれたねぇ。


 ま、御主人様の妹だけあってこういうところは気が利くものさね。


 中身はサンドイッチとおにぎりだね。ライルはどっちも好きみたいだねぇ。


 飲み物のお茶はどっちの料理にも良くあうねぇ。唐揚げもあって味はいいよ。


「はぁもうすぐお兄様にも私のお弁当をうへへぇ」


 全くだらしない顔をしてるもんだねぇ。そういえばラーサは明後日には屋敷を出て御主人様の通う学園に向かうんだったね。


 羨ましいねぇ。あたしも行きたいもんだけど――うん? この気配は……。


「お姉ちゃん?」

「ちょっとアネ。怖い顔してる!」

「悪いねぇ。最近平和だったから久しぶりにこの気配を感じてついねぇ」

「え?」


 ラーサが目を丸くさせていると、ぞろぞろと木の陰からオス共が姿を見せたねぇ。


「へへ。驚いたな。伯爵家のガキがいると聞いていたが、こんなエロい姉ちゃんまでセットでついてくるとはな」

「大人しくしてればいい思いさせてやるぜ? げへへっ」


 むさ苦しい連中が来たもんだねぇ。やれやれ。ま、食後の運動には丁度いいかもねぇ。

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