第216話 魔力0の大賢者、教室で考える

「う~ん……」


 イロリ先生が本校舎に向かったから僕たちは自習となったわけだけど、そんな中教室で僕はずっと教科書とにらめっこしていた。


「マゼルそんなの見ても無駄だろう。こんな嫌がらせとしか思えない教科書、どうしろってんだよ」

「はは――」


 アズールは教科書をペラペラさせながら不服を口にしていた。僕以外誰も教科書を手にとっていない。


 ドクトルは暫く頑張っていたみたいだけど、今はもう諦めちゃったみたいだ。


「そもそもアズールは普通の教科書でも無理なんじゃないの?」

「は? んだとテメェ!」

「何よ本当のことでしょ?」

「だったらお前はどうなんだよ。頭良くないって自分で言ってたじゃねぇか!」

「な、それでもきっとあんたよりマシよ!」


 アズールとメドーサの言い合いが始まってしまった。テストも近いからかどこかギスギスしはじめてる気がする。


「喧嘩はやめようよ。こういう時は皆で協力した方が勉強も捗ると思うし」

「ま、マゼルくんの言うとおりだよ~喧嘩してもいいことないと、お、思います!」

「ピ~ッ!」


 二人を宥めようと声を掛けるとアニマも一緒になって呼びかけてくれた。

 肩の上のメーテルも喧嘩よくない! と言ってるようでもあるね。


「だがマゼル。協力しようにも教科書がこれだとテストの範囲もしぼれない。そもそも何から手を付けていいかもわからない状態だ」


 ガロンが渋い顔で意見を言った。確かにそこなんだよね。教科書が読める状態なら、どんな勉強が必要か目処が立つのだけど。


「ねぇねぇ。メイリアって優秀なゴーレムなんだよね? それなら勉強の仕方なんかもわかるんじゃない? どうかな?」


 席を立ちリミットがメイリアの側にいって聞いた。メイリアは七賢教の一人とされるゲシュタルが作成したゴーレムだ。見た目は可愛らしい女の子なんだけどね。


「――それは私に勉強を教えろという命令でしょうか? とお答えします」


 質問に答えるメイリア。リミットが困った顔を見せた。


「いや別に命令ってわけでもないけど……」

「てか、どっちかというと答えを教えて欲しいんだけどよ」

「それは流石に厳しいんじゃないかなぁ」


 二人のやり取りを聞いていたアズールが答えについて触れるとドクトルが苦笑気味に言葉を返したよ。流石に直接問題の答えというのはね。それに答えだけわかっても身につかないし……


「命令でないのであれば私にその権限はありませんとお答えします」

「えぇ、権限とかあるの?」


 メイリアの答えにリミットが目を丸くさせた。

 

「私はマスターの作成した魔導ゴーレムです。私の意思決定権はマスターにのみ存在しますとお答えします」

「えっと、マスターのゲシュタル教授はメイリアに何と言っていたの?」


 ちょっと気になったから聞いてみた。


「――マスターはこのクラスの皆と愉しい学園生活を送ればいい、とただそれだけ言ってましたとお答えします」


 愉しい学園生活か……それって皆と仲良くやるってことな気もしないでもないけど。


「そ、それならメイリアさん、と、友だちになりましょう!」

「あ、うんそうだよね。どうかな先ずはクラスの皆と友だちから始めるのは?」


 アニマが率先してメイリアに気持ちを伝えた。僕もアニマに続いてメイリアに提案する。


「――私はマスターに作られたゴーレム。人の言う友だちという概念は存在しませんし必要ありませんとお答えします」


 メイリアが抑揚のない声で答えた。アニマがしゅんっと肩を落としてしまったよ……


「おいテメェそんな言い方ないだろうが!」

「私は聞かれたことに答えただけですとお答えします」

「だからそういうんじゃねぇだろうが。あぁもう、わ~ったよ。そんなに命令して欲しいならしてやんよ! メイリア俺たちに勉強を教えやがれ!」


 アズールが眉を怒らせて叫ぶ。


「――私に命令出来るのはマスターのみ。そうお答えしたはずですとお答えします」

「な、て、テメェ! ウォッ! あち、あちぃいいぃいっぃぃい!」

「わ、アズールが!」

「また燃えたぞ!」


 アズールが発火した。今のやり取りで興奮したからか。


「あ、丁度いいからこの炎で料理しない? お腹減っちゃったよ私。シアンもそう思うよね?」

「……別に――」

「ふ、ふざけ、あちぃ、あちちちちちちっ!」


 この状況でリミットがわりとマイペースなことを言った。シアンにも同意を求めているよ。そういえばもうお昼って、そんなこと考えてる場合じゃないね! 炎を消さないと――


「火の用心~~~~~~~~!」

「うわぷっ!」


 その時だった。アズールの頭上から水が降り注ぐ。バケツを引っくり返したような水量だよ。


 あれ、でもこの声って?


「危なかったねぇちみぃ。危うく火事になるところだったぞッ(キラッ☆) お姉さんに感謝してよね♪」

 

 や、やっぱり師匠!

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