第215話 マゼルに会いたい!

side クイス


「やっぱりありえないです!」

「うん! ありえないわ!」

「マゼルにあいた~い!」


 はぁ。全く姫様にも困ったものだ。少し前にここから抜け出し旧校舎に向かおうとして失敗したばかりだというのに。


「……だけど勝手に出て退学は割りに合わない」

「本当まさかそんなに厳しいなんてな」

「だよね~今だって昼食の時間だからまだ顔を合わせられるけど」


 そう今は午前の授業が終わりお昼休憩に入ったところだ。学園には学食が備わっていて生徒はここで食事を摂る。


「皆ご機嫌斜めだね~」

「あ、ハニー♪」


 席までやってきた美少女にビロスが飛びついた。この方はビロスと一緒に暮らしていた子のようで、どうやら学園の食堂で暫く働くことになったようだ。


「……でも驚いた学食で働くなんて」

「一応ビロスの保護者みたいなものだからね~学園に入ってじゃあ終わりってわけにもいかないし色々心配だから面接を受けたんだ~」


 保護者というには若すぎる気がするのだが……姉妹と言った方がしっくりくる。


「姫様。お気持ちはわかりますが小テストが終わるまでの話です。ここは今暫く辛抱を」

「うぅ、折角久しぶりに会えたのに……」


 うん? 今久しぶりと聞こえたような?

 

「……仕方ない。今はテストに向けて頑張る」

「はは、さっきから聞いていればまだあんな落ちこぼれの事を考えているのか」


 私達の会話に随分と不躾な声が割り込んできた。見ると茶髪の男が底意地の悪そうな笑みを浮かべて立っていた。


 このラクナのことは一応知っている。私も姫様もSクラスに割り当てられた。姫様はZクラスがいいと訴えていたがそれは無理だという話だったからな。


 そういえばこのラクナ、確か入学式の際にはマゼルに絡んでいたな――


「……ラクナ。何のよう?」

「はは、ご挨拶だな。お互い知らない仲じゃないだろうに」

「……馴れ馴れしくされる間柄でもない。くだらないことしか言う気がないなら消えろ」

 

 アイラも言うものだな。しかしラクナも随分と嫌われているようだ。


「――お前たちはマゼルを過大評価しすぎだ。学園に来てわかっただろう。あいつはZクラスの落ちこぼれ一方でこの俺はSクラス。どちらの方が将来性があるかよく考えた方がいい」


 そう言いながらアイラの髪に触れようとする――だが、その手をなんと姫様が打ち払った。


「淑女相手に失礼が過ぎるのでは? こちらの貴族はもっと礼節が備わっていると思いましたが」

「――ふん、特待生扱いのエルフの姫様か。にしては随分とお転婆なようだな。ま、そういうタイプも嫌いじゃないがな。どうだ折角Sクラス同士なのだから俺の女になるというのは? 悪いようにはしない――」


 こいつ――アイラに対する行為も見逃せないが姫様にこの言動……


「フンッ、こっちも随分とじゃじゃ馬なようだな」


 思わず私は剣を抜いていた。だが岩の壁が出来上がり私の剣を止めてしまった。


「クイス。抑えて」


 奴を睨む私を姫様が制した。確かに学園で剣を抜くのは好ましくないが姫様のこととなるとつい熱くなってしまう。


 ただ――姫様。その後ろで鬼の形相を見せる火の精霊王――言葉と行動が伴ってないのだが……


「お、おいおいなんだありゃ!」

「悪魔か! 悪魔が現れたのか!」


 姫様……周囲の生徒も騒がしくなっているのだが――


「……気持ちわかるけどイスナも落ち着く」

「ハッ、私としたことが」

「凄く熱くてありえない、いえありえるのです!」

「イスナ背中熱くないの~?」

「僕の眼鏡にはわかります。あれは精霊王イフリート!」

「ナチュラルにそんなの呼び出すのがすげーよ」


 確かにそうやすやすと出していいものではないなそれは……


「この火力、はちみつクッキーを作るのに役立ちそう!」


 いやハニーよ。だからそんなちょっとした調理器具みたいに使える相手でもないのだぞ?


「良かったら今度お貸ししますよ」

「本当に! じゅあ美味しいクッキーできたらおすそ分けするね!」

「はちみつクッキー……美味しそう。ありえますね!」

「チュ~♪」

「ハニーのクッキー大好き~♪」


 姫様そんな気軽な――


「フンッ。精霊王か。なるほど中々やるようだな。だからこそマゼルに執着する意味がわからんがな。あいつは所詮三流の落ちこぼれ。どうせすぐ退学になるだろうがもしこの俺とやる機会があったら徹底的に叩きのめしてやる」

「……お前には絶対ムリ」

「身の程知らずもいいところです」

「絶対にありえないです!」

「チュ~!」

「お前嫌い! マゼル負けない!」


 この男随分と強気な――たださっきの魔法は侮れなかった。これでも試験に合格しSクラス入りとなったのだから油断出来ない相手ではあるかもしれない。


「まぁいいさ――いずれお前たちにもわかる。よりどちらの方が優れているかをな」


 そう言ってラクナが踵を返したが――そこに同じSクラスの男子が立っていた。癖のある灰色の髪が特徴のアダムだ。


 確かマゼルと試験が一緒だったのだったな。


「――どけよ」

「君、あのマゼルより強かったのかい?」

「当然だ。あんな落ちこぼれに俺は負けん!」

「ふ~ん。そう、それはおもしろそうだねぇ。だったらいずれ僕とも遊んでみるかい?」

「……フンッ。不気味な奴め」

「あらら、行っちゃった――」


 結局ラクナがアダムを避けるようにして去ってしまった。しかしこのアダムも妙な雰囲気の感じられる男であるな――

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