第214話 スーメリアとリカルド
話が終わりイロリが部屋を出ていった。
「は~い理事長。来ちゃった♪」
そう思っていたら今年から特別教師として来てもらったスーメリアがノックもせずに入ってきた。
こいつ見た目といい自由な奴だ。それにしても来客が多いな。
「せめてノックぐらいしてもらいたいものだな」
「あはは。メンゴメンゴ。私達にそういう風習ないからね~」
そんな話聞いたことないぞ。全く適当な女エルフだ。とは言え知名度は高い。学園の評判を上げるにはもってこいの存在だ。
「それで要件はなんですかな? スーメリア先生」
「いや~先生だなんて照れくさいな。私が先生か~そうか~」
くるくる回転しながら何故か魔導獣を取り出して決めポーズをしてみせた。何がしたいんだ……
「それで用ってほどでもないかもだけど、マゼルの事が気になってるんだよね」
「……マゼル? はて貴方はマゼルのお知り合いで?」
「まぁちょっとした縁でね。お互いマーたんスーたんと呼び合う仲なのさ♪」
ま、マーたん? 何だそれは初耳だぞ。くそこの女はどこまでが本気かよめん。
「そういうわけだから適当なところで旧校舎ってところに行ってみようと思うんだよね~」
「それは駄目だ。スーメリア先生の担当教室は本校者にある。旧校舎は関係がない」
一応生徒と違って教師に関しては行き来に制限はないが、好き好んで旧校舎に行く教師などいないからな。
どっちにしろマゼルと知り合いというならわざわざ近づけさせる必要はないだろう。
「え~? なんで~?」
「……そういう決まりだからだ」
「決まり。決まりねぇ。でも理事長お忘れかな~? 私は今回の件を引き受ける代わりに好きにやらせてもらうとそう伝えておいた筈だよね~?」
チッ、確かにこの女はそんなことを言っていたか。
「……確かにそうは聞いてたがあくまでルールの範囲内でだ。自由だからと何でもかんでもやっていいというわけじゃない」
「あはは。勿論私も常識外のことをするつもりはないよ。でも、ただマゼルに会いに行くってだけで妨害されるのもね。納得行かないな~あ~あ~何か先生やる気分じゃなくなったかも~」
こ、こいつ――
「……わかった。ただし一人では駄目だ。誰か付きそいをつける条件なら許可しよう」
「う~んそれぐらい仕方ないかな。じゃあ希望はね~」
「誰が付きそうかは私が決める!」
こいつ天然なのか? しかしこんなに扱いにくそうな女だったとは。
「横暴だよぶ~ぶ~!」
「わがままも大概にしてほしいですな。それに先程教師をやる気がなくなったと言われましたが、もしそれが本気ならこちらとしても違約金を請求させて頂くことになりまずぞ?」
「ふ~ん。そうくるんだ――」
スーメリアが目を細める。酷く冷たい感情の込められた瞳だった。こいつ――
「ま、いいや。わかったよ~」
「そうか。なら決まったら後で声を掛ける。用はそれだけかね?」
「んにゃ。実はもう一つ。実は私、大賢者の伝説にも興味があってねぇ」
「……ほう?」
大賢者……ふん。まだそんなことに興味を持つのが残ってるか。
「それでね~気になったことがあってね~」
「ほう? それは?」
「あはは。大したことじゃないんだけど~ここ十年程で急に大賢者の力は作り話でおとぎ話に過ぎないって噂が随分と広まっているみたいなんだよ~何なら大賢者は魔法なんて一切使えない嘘まみれの詐欺師だったみたいなことを言い出す人まで増えてるみたいでねぇ。これってどういうことだと思う?」
スーメリアが私にそんなことを聞いてきた。
「ふむ。何故私にそのようなことを?」
「いや~こんな凄い学園の理事長をしてるぐらいだから貴方はきっと凄く頭の切れる人だろうなとおもって。そういう噂を広める相手の心理なんかもよくわかるんじゃないかな~と思ってね~」
「はは。なるほど。しかし噂を広めたのが誰かと考えているようでは答えにはきっとたどりつかないでしょうな。勿論あくまで私の私見ですが」
「へぇ~それはまたどうしてそう思うの?」
「別に難しい話じゃない。そもそも大賢者の伝説については疑念を抱くものも私の知り合いに何人もいる」
「その中に貴方も入ってるのかなぁ~?」
「……勿論私はいまこそ理事長などという立場に収まってますが元は研究者の端くれ。故に真実を追求するのに余念はないつもりだ。とは言え、私以外にも数多くの学者が研究したことで少しずつ大賢者の力に真実はなかったという見解が囁き始めそれが広まってきたのでしょう。スーメリア先生のようなエルフからみれば十年程度瞬きしている間に過ぎ去るような年月でしかないでしょうが、人間社会ではそれなりに長く噂が自然と広がるには十分な時間とも言えるのですよ」
「ほうほう。なるほどね。確かに私はエルフだからね~時間の感覚はちょっとは違うかもね~もっとも最近は人を相手にする仕事しているから多少はこっちの忙しない時の流れにも慣れてきたとは思うんだけどね」
「あはは。そうでしたか。ではその調子で今後の授業も頑張って頂きたいですな」
「――そうだね。あ、そういえば理事長は学者と言っていたけど確か魔法生物学の研究だったよね~論文をチラッとみたことあるかも~」
「――はは。お恥ずかしい。随分と昔の論文だと思いましたがまさか見られていたとは。ですが私は雑食でね。それだけじゃなく様々な研究に手を出してましたよ。おかげで学者としては実に中途半端に終ってしまった」
「そっか~それは残念だなぁ。でも今はこうして理事長してるんだから良かったよね~それじゃあさっきの件よろしくね~」
そしてスーメリアが部屋から出ていった。それを認め思わず口から言葉が漏れる。
「あの、女狐が――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます