第212話 魔力0の大賢者、先生にお願い

「とにかく教材は渡した後は好き勝手やってろ」


 ページがバラバラの教科書を受け取った僕たちに、相変わらずの突き放したような態度を見せるイロリ先生。


 聞いていた皆は不満そうな顔を見せていた。確かにこの教科書で勉強するとなると相当大変だ。


「じゃあな。俺は行く」

「ちょっと待てよ。あんた俺たちの教師だろう? それなのに生徒放ったらかしてどこ行くつもりだ!」

「お前たち相手にまともに授業するつもりなんて無いと言っただろうが。俺は部屋で寝る、といいたいとこだが面倒なことに本校者に行く用事があるんだよ」


 アズールが文句を言うとイロリ先生が面倒くさそうに答えた。でも本校舎か――


「イロリ先生。それなら実はアニマさんが連れてきていたシグルと言う狼が向こうの校舎に預けられたままみたいなんです。それで昨日――」

 

 僕は昨日の風紀委員とのやり取りをイロリ先生に伝えた。もし話が通ってるならシグルを返して貰えるかもしれないし僕たちは本校舎に行けないからイロリ先生が話を聞いてくれるならアニマも助かると思う。


「チッ、なんでそんな面倒なこと」

「あ、あの、私からもお願いします! シグルは大切な家族なんです!」

「ピィ~!」


 アニマも先生にお願いした。肩の上に乗ってるメーテルも追随するようにイロリ先生に向けて鳴き声をあげている。


「――ふん。あまり期待はするなよ」


 イロリ先生はそう言い残して教室を出ていった。


「何だよあの野郎。本当腹立つ!」

「アニマ。あの先生に期待しても無駄だよ。絶対何もしないって!」


 アズールとメドーサはイロリ先生に否定的だった。確かにこれまでの態度を見るとまるで僕たちに嫌われるようにやっているように思えてしまう。


「シグル……」

「ピィ~……」

「僕は大丈夫だと思うよ。何だかんだ言って先生はそういうことはしっかりしてくれると思う」


 アニマとメーテルも不安そうにしていたから、少しでも不安を払拭出来ればと思い声を掛けた。


「何でマゼルはそう思うんだ?」

「そうだよ。正直今までの態度見てると私達の為に何かしてくれるとは思えないじゃん」


 ガロンとリミットは僕の意見に納得がいってないみたいだ。先生に対する不信感が凄い。


「う~ん何というか、本当に嫌だったらそう言うよね? でもイロリ先生は期待するなよと言っただけだった。それって多分話はしてくれるつもりだから出た言葉だと思うんだ」

「……そう言うもんか?」

「マゼルは甘いのよ」

「あはは……」


 アズールは怪訝そうだしメドーサはからはキツめに返されてしまった。。


「マゼルの言うとおりだと思いたいけど、そんな気持ちを持ってる人がこんな教科書を渡してそれまでってやっぱりありえないと僕は思うよ。本当こんなの読んでも意味不明だしさっぱり頭に入らない」

 

 僕たちが話している間もドクトルは教科書をチェックしていたみたいだ。でも一通り眺めて匙を投げたように教科書を閉じた。


 う~んでもこの教科書、本当にただバラバラなだけなのかな――






◇◆◇

side ルル


「狼だと?」

「はいシグルという狼でZクラスのアニマという女生徒が使役している狼だそうで、引き取りたいと話を聞きましたので」

「ふん。あの狼か――」


 私は昨日風紀を乱そうとしていた後輩生徒の事を思い出し、理事長室にやってきました。本来なら直接理事長に聞くような案件でもないのですが――


「その時狼を預かったという教師に話を聞くと、理事長がその後を引き継いだと聞きましたので失礼ながら伺わせて頂きました」

「――あぁ確かにそうだったな。ちょっと待っているがいい」


 そしてリカルド理事長が奥の部屋に入っていきしばらくして戻ってきた。

 

 正直理事長と話をするのは緊張感があったけど、滞りなく引き取らせて貰えてよかった。


「それでは失礼します」

「あぁ。しかし使役してると言っても狼だ。暴れたりしない・・・・・・・よう気をつけさせるんだな」

「――承知いたしました」


 そして私はシグルを引き取り理事長室を出た。


「――ガル?」

 

 廊下でシグルを持ち上げて見る。小首をかしげて私を見ていた。私を――


「きゃ、きゃわいいぃいいいい!」

「ガウ!?」


 あぁ、もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ! なんでこんなに気持ちいい毛並みしてるのよ~!


「……お前、何してるんだ?」

「――はい?」


 ふと、シグルをモフっている私に声が掛かった。そこにはZクラスを任されたイロリ先生の姿――


「キャァアアァアア!」

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