第211話 魔力0の大賢者、教科書を受け取る
「ちょっと! そんなの流石に無茶じゃない! 言っておくけど私頭良くないんだからね!」
「そこ威張っていうところじゃないような……」
先生を指差しながら今度はメドーサが叫んだ。聞いていたドクトルが苦笑いしている。
う~ん。85点以上か。確かに高めだけど――
「大変だけど時間はまだあるよ。ほら苦手な点は皆で協力し合えばきっとなんとかなるよ」
「……そりゃあんなわけわからない魔法が使える大賢者様なら余裕だろうけどね」
メドーサが唇を尖らせる。魔法じゃないんだけどね――
「いいかげんにしろよメドーサ。お前がどれだけ頭良くないか知らないが絶対俺の方が頭わるいからな!」
バンっと机を叩きアズールが声を張り上げた。何か妙な意地の張り合いになってる!?
「だから威張って言うことか」
「いっそ清々しいぐらいの開き直りだね」
ガロンとリミットが呆れたように言った。でも師匠も自分に何が出来ないかを把握することは大事だって言っていたしね。
「わ、私も苦手なのあるし、皆で頑張ればきっと大丈夫だよ~わからなかったら先生が教えてくれるだろうし……」
「ピィー」
アニマが小さく拳を握りしめていた。肩の上でメーテルが鳴いてるね。
ただイロリ先生は特に反応がなかった。
「お前らそういう話は後で適当にしろ。これから教材を配る」
そしてイロリ先生は用意してあった教科書を皆に配ってくれた。一人八冊ずつだ。科目毎にわかれている。
「お前たちは今日からこれで勉強してもらう。まぁ試験で平均点以上取れるよう精々頑張るんだな」
やっぱりイロリ先生の言い方はどこか突き放したような感じだね。でも何でだろう?
「…………」
シアンの机にも教科書が置かれていた。シアンはじーっとそれを見ていたね。
「この教科書私にもですか?」
イロリ先生にメイリアが質問した。何か不思議そうにしている。
「お前も今日から学生だ。だから受け取れ」
「――わかりましたとお答えします」
メイリアも納得したようだね。
「ここって先生一人だよね? 全教科先生が教えてくれるの?」
教科書を受け取った後リミットが先生に質問する。確かにここに他の先生が来る様子はない。
「俺が? 馬鹿いえ。そんな面倒な真似するかよ」
「いや、だったら一体誰が授業をしてくれるんだ?」
イロリ先生の答えを聞いてガロンが怪訝そうに問いかけた。先生は気だるそうに欠伸をしてから質問に答えてくれた。
「誰も授業なんてしない。さっきも言っただろう? 平均点以上とりたければ教科書を読んでお前らで勝手に勉強しろ。必要なことはその教科書に書いてある」
「こ、この教科書だけで勉強?」
「冗談だろう! そんなのいい加減すぎるだろう?」
「あぁそうだ。俺は最初からお前ら相手に面倒な真似をする気はない。Zクラスなんていう最底辺の烙印を押されたお前らなんて相手するだけ無駄だからな。俺は最初からそう言っておいた筈だが?」
メイリアとシアン以外の皆が唖然としている。でもイロリ先生の言葉をそのまま受け取っていいのかどうか――
「先生この教科書を確認してみてもいいですか?」
「……好きにしろ。それはお前らの教材だ」
先生の許可が下りたから教科書の一冊を手にとって捲ってみた。これは魔導工学かこっちは術式構築――あれ? でもこれって……
「ちょ、ちょっと待ってよ! この教科書ページがバラバラじゃないか!」
「本当だ――内容が全く噛み合ってない」
「え? そうなのか?」
「言われてみればわからない気がするわね。何がわからないかわからないけどね!」
そう。ドクトルとガロンが言うようにこの教科書はすべてページがバラバラなんだ。アズールとメドーサは小首をかしげてるけど――
後これって、科目毎にわかれてるかと思えばよく見たらそれもバラバラだ。
まるで一度はまとまっていた教科書を一旦裁断して適当に重ね合わせたみたいに――
「先生これ不良品だよ。こんな教科書じゃ勉強出来ないよ」
リミットが不満を漏らす。確かにちょっと見ただけでも普通ではないことがわかる。
「これは勿論手配しなおしてくれるんですよね?」
「そんな面倒なことするわけないだろう。それに学園の方針でよほどの事情がない限り教科書の再配布はしない」
「いや、内容がバラバラなんだぞ? 余程のことだろう?」
「何だお前ら。教科書のページがバラバラだと勉強ができないとでも言うつもりか?」
「な!」
先生が小馬鹿にしたように答えた。ガロンが目を白黒させている。
「ちょっとまってください冗談ですよね?」
ドクトルが信じられないと言った顔で先生に問いかけた。だけどイロリ先生の答えは変わらない。
「冗談なんかじゃない。ページがバラバラだろうが覚えるべきことはそれに載っている。それで無理だっていうならそれまでだ。とっとと諦めるんだな」
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