第202話 魔力0の大賢者、食事について考える

 僕たちは途中で引き返して旧校舎まで戻ってきた。


「うぅお腹減ったよぉ」


 リミットがお腹を押さえながら肩を落として歩いていた。本校舎の食堂で食べられると思っていたからか、ますますお腹が減ってきたようだね。


「何だお前ら、もう戻ってきたのか」


 するとイロリ先生が出てきてやれやれといった顔を見せた。アズールがムッとした様子で前に出る。


「あんた俺たちが本校舎に行けないって知ってたのかよ」

「それがどうした?」


 文句を言うアズールに、先生がなんてことがないような態度を見せる。


「どうしたってだったら教えてくれてもいいじゃない」


 メドーサも不機嫌そうだね。予め言っておいてくれればわざわざ時間を掛けて山を下ることなかったのに、と途中ブツブツ言っていたっけ。


 ただそれを聞いていたとしてもアニマが預けた狼の問題は残ったんだよね。そう考えたらあそこで風紀委員と会えたのは良かったのかもしれない。少なくとも委員長のルルは話がわかる人だったし。


「ふん。何で俺が勤務外の時間でそんなこと教える必要がある。いいか? 俺は授業以外で必要以上にお前らに関わるつもりはない」


 イロリ先生が顔を顰め、自らの考えをはっきりと言ってきた。皆の顔に不満が募っていく。


「授業だけって、それなら僕たちの生活には一切タッチしないってことですか?」

「そうだ。お前らもいい年なんだから自分のことぐらい自分で考えろ」

「随分な言い草だな」


 ドクトルとガロンが怪訝そうにイロリ先生を見る。

 

「もうそれはいいじゃん。アニマの狼についても一応は解決したんだし」

「あ、はい。な、なんとか風紀委員長にお願い出来ましたし」

「ピィ~」


 リミットが疲れた顔を見せる。アニマも安堵しているようではあるね。


「風紀委員長……あいつか。喜ぶのはいいが風紀委員に目をつけられて退学にならないよう精々気をつけるこったな。ま、その方が俺は楽でいいが」

「な、何だと! あんた俺らが退学になってもいいってのかよ!」


 先生の発言にアズールが噛み付く。


「あぁ。どっちにしろ時間の問題だろうしな」


 時間の問題? どういう意味なんだろう?


「先生それよりもお腹減りました~ここの食堂はどこなの?」

「食堂? アホか旧校舎にそんなものあるわけないだろう」

 

 リミットの問に対して呆れたようにイロリ先生が答えた。食堂がない? 確かに最初に中を見て回った時にそれっぽいのはなかったけどね。簡素な厨房みたいのはあったけど。


「ちょっと待ってくれよ。だったら食事はどうするんだよ!」

「厨房があるだろう。道具はそこのを適当に使え」

「いや、道具だけあっても仕方ないだろう。食材はどうするのだ?」


 アズールが奮然と叫ぶけどイオリ先生があしらうようにして答えた。確かに厨房には最低限の道具は残されていたと思うけどガロンの言う通り材料の問題がある。


「この場所の唯一優れているところは、山の中ならどこに行こうが文句は言われないことだ。よかったな。ここはサバイバルの授業にも使われる山だ。動物だっているし探せば山菜や果実だって採れることだろう。川に行けば魚もいる」

「自給自足でやれということですか?」


 両手を広げて説明する先生にドクトルが問いかけたね。質問に対しイオリ先生が頭を振り答えるよ。


「当たり前だ。お前らは最低ランクのZクラスなんだ。他の生徒みたいにただ与えられた餌だけ喰ってればいいような大層な身分じゃないんだよ」

「そ、そんな言い方、酷いです」

「ピィ~!」


 悲しそうな声でアニマがつぶやく。肩のメーテルが先生に向けて甲高い鳴き声を上げた。抗議してるようだった。


「それが嫌なら学園を辞めることだな。不満があるのに無理して居続ける必要もない」


 突き放すような言い方だった。一見すると僕たちに辞めて欲しいようにも感じられるけど――


「あの。ならこの山の範囲なら何をしても自由ということですか?」

「そうだ。そもそも俺はお前らにあれこれ指図するつもりはない。言えるのは精々他の教師や風紀委員に目をつけられないよう気をつけることだということぐらいだ。俺だって面倒事はゴメンだからな」

「そう、ですかわかりました。だったら皆まだ時間はあるんだし狩りにでもいこうよ」


 アニマは落ち込んでそうだけど、それならそれでやりようはあると思う。少なくともこの山の中なら制限なく動けるわけだし。


「狩りって本気なのか?」

「だってそうしないと食事も出来ないよ。無いものは無いでくよくよしてても仕方ないよ」


 先生は突慳貪な言い方ではあったけど、道標はしっかり示してくれたと言えるよね。それに今サバイバルの授業って言っていたし、いずれそういうのがあるなら今のうちに慣れておくのは悪くないと思う。


「狩りか……確かにそれしかないなら仕方ないかもな」


 僕の意見に最初に賛同してくれたのはガロンだった。雰囲気的に狩りには自信があるのかもしれない。


「ふぅ、仕方ないよね」

「そうだよ! こうなったら大物を皆で狩ってたらふく食べてやろうよ!」

「力仕事は嫌いなのに……はぁ」

「わ、私に狩りなんて、で、できるかな」

「ピィ~!」

「う、うん。そうだねありがとうメーテル!」

「お前本当に動物と心通わせられるんだな」


 最初は不満しかなかった皆だけど、それしか方法がないとわかってやる気になってくれたみたいだね。


「ふん。ま、行くなら行くで精々気をつけるこったな。動物といったが当然魔物の類も跋扈してる。奥にいけばいくほどな」


 イオリ先生はそれだけ言って建物に戻ろうとした。だから僕は先生に感謝の言葉を投げかける。


「イオリ先生ありがとうございます」

「……は? 何いってんだお前?」


 僕が立ち去ろうとする先生の背中に声をかけると、先生が振り返り眉を顰めた。


「だって僕たちのこと心配してくれて魔物のことを教えてくれたんですよね?」

「――アホらしい。言っただろう? 俺は面倒はゴメンなだけだ」


 そう言い残して先生は旧校舎に戻っていった――

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