第201話 魔力0の大賢者、風紀を乱す?
先生が妙に意味深な言葉を残していたけど、アニマのこともあるからね。
僕が先頭で皆を導きながら本校舎を目指した。
「そういえばお昼がまだだったよな。本校舎には食堂ぐらいあるよな?」
「噂だと、魔法学園では腕利きの料理人が雇われているから味には期待できそうだよね」
リミットがニコニコしながら話した。すると彼女のお腹がぐぅ~っと鳴る。
「やれやれお行儀悪いわね」
「むぅ、しょうがないじゃん。そうだ! ついでだから本校舎でお昼食べようよ!」
リミットが手を合わせ声を弾ませた。確かに皆もお腹が空いてきてるだろうしね。
「メーテルもお腹すいた?」
「ピィ~」
アニマの肩で鷹のメーテルが鳴いた。鷹もご飯の時間かな。
そしてみんなでワイワイ話しながら僕たちは進む。結構距離があるからお喋りしながらの方が気が紛れるだろうしね。
「やれやれ貴方達一体どこに行かれるおつもりで?」
進んでる途中正面から五人の男女が近づいてきて、険しい顔で問いかけてきた。
格好は同じデザインで統一されていて男子はズボンで女子はスカートだ。腕には風紀と書かれた腕章を巻き付けている。
「貴方達は?」
「私達は魔法学園生徒会執行部――風紀委員会」
眼鏡を掛けた女の子が一歩前に出て答えた。風紀、委員会?
「で、その風紀委員会が何の用なんだよ?」
「私達のやるべきことは学園の風紀が乱れないよう監視すること。勿論それはルールを守らない生徒もよ。貴方達のようにね」
「ルールを守ってないだと?」
ガロンの眉が雷のように蠢く。
「随分な言われようだね。僕たちただ歩いているだけなんだけど」
ドクトルも不満そうだよ。すると後ろの男子生徒が両手を広げて口を開く。
「ふん。お前たちは本当に何も知らないのだな。いいか? お前たちを含めた一年生は暫く行動範囲が制限される」
「え? 制限?」
「そうです。基本的に校舎の利用は授業の間のみ。それが終われば寮に戻り寮の中でのみ過ごしてもらいます。もしそれ以外でどうしてもしたいことがあればその都度申請が必要となるのです」
眼鏡を掛けた少女が教えてくれる。そんなこと知らなかったけど、あ、でももしかして先生が言っていた意味ってこれ?
「ちょっと待って。だとしても私達は全然違う離れの寮に押し込まれてるんだけど?」
メドーサが不満をぶつける。確かに僕たちは本校舎から随分と離れた校舎だ。
「関係ありません。そもそもZクラスは旧校舎で寮生活も行なうというルールです。旧校舎だけで済むのなら本校舎に行く必要もありません」
「えぇ! だったら食事は! お昼は本校舎の食堂で食べたかったのに~!」
リミットが猛烈に講義する。相当お腹が減ってるみたいだね。うん。これからのことを考えたら食事は大事だよ。
「それは私の管轄外です。担当の先生がいるのですからそちらに聞いてください。とにかくルールは厳守してもらいます」
う~ん、何か取り付く島もない感じだね。
「あの、僕たちはアニマさんが預けてる狼のこともあって本校舎に行きたかったのですがそれでも駄目ですか?」
僕が風紀委員の女の子に聞いてみた。本来の目的はアニマが預けているという狼のシグルを引き取りに行くことなんだ。
「狼?」
「は、はい。私はこの子とシグルを連れてきていて。に、入学式があるからと狼のシグルは、あ、預かって貰ったのです」
「そうですか。ですが今日は無理です。さっきも言ったとおりそれなら申請をしてもらわないと」
「えっと、その申請はどうすれば?」
「本校舎の受付でする必要があるわ」
「いや、だからその本校舎にいけないってお前たち言ってるんだろう?」
僕とアズールで色々聞くと少女は眼鏡を直しながら答える。
「……一年生は暫く旧校舎から本校舎にはいけません。それがルール」
どうやらルール厳守だから例外はないという考えらしいけど、それだとそれまで申請そのものができなくなるんだけど……
「暫くと言うとどれぐらいなんですか?」
「来月末に小テストが行われます。その結果が出てからの判断となります」
「そ、そんな! い、一ヶ月もシグルを放ってなんておけません!」
アニマがこれまでより一際大きな声で訴えた。控えめな女の子といった印象だったけど大事な物は譲れない芯がある子でもあったようだね。
「何を大げさな。高が狼一匹で」
「全くだこれだから制服も与えられないZ組は。大体畜生などの為にルールを曲げられる物か」
後ろの男子が言う。制服――そうか本校舎では生徒に制服提供されるんだ。でも、僕たちにはそれがないということか……まぁそれはそれとしても――
「それに狼なんて危険よ。風紀委員としては処分も検討していいと思います」
「その鷹もだ。Zクラスの分際でペットなんて生意気なんだよ」
先頭に立った少女の後ろにいた面々が随分と心無いことを口にしている。ルールが大事なのはわかるけど――
「そんな言い方はないよね? 彼女にとっては大事な友達だ。軽々に決めつけていいものじゃないよ」
「何だと? 貴様、無能なZクラスの分際で風紀委員に逆らうつもりか!」
「黙りなさい!」
風紀委員の一人が不機嫌そうに言葉を発した。すると先に話していた少女が怒気を強め後ろを振り返り叫んだ。
「我々風紀委員は常に中立。公平無私でなければならないのです。にも関わらずなんですか! 勝手なイメージや憶測だけで判断するなど決してあってはならないこと。恥を知りなさい!」
彼女が叱咤すると、後ろに控えていた委員の子たちが静まり返った。青い顔してるし相当効いているようだね。
「――済まなかったわね。風紀委員会委員長として今の非礼は謝らせて貰うわ」
「え、えっとわかってもらえたなら、い、いいのです」
今の様子にアニマもちょっと動揺してるみたい。そしてこの子、風紀委員長だったんだね。道理で。
「それじゃあ本校舎に行くのは許可貰えるのか?」
「それは駄目です。ですが話はわかりました。この私が責任をもって持ち帰り、シグルという狼について責任者と話させてもらいます。勿論結果も報告させてもらうわ。とりあえずはそれでどうでしょうか?」
「そ、それなら。あ、あの、ただシグルがお腹をすかせてると思うので」
「わかりました。勿論食事もしっかり与えるようしましょう。何か注意点はありますか?」
「それなら――」
アニマが委員長に伝えると、しっかりメモに取っていた。真面目な子だよね。それだけに信頼に足る人物だと思う。
「それでは皆様はこのまま戻られるよう。シグルの件は魔法学園二年、風紀委員長である私ルル・キャンベルが承ったので――」
そこまで話されると僕たちも納得する他ないよね。アズールは不満そうだったけどとにかく一旦引き返すことにした――
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