第197話 魔力0の大賢者、担任の教師を知る

「喜べイロリ。うだつの上がらない貴様にぴったりなZクラス入りの生徒がこいつらだ」


 大きな欠伸をかきぼりぼりと頭を掻きむしっている先生に、ゲズルが僕たちを紹介した。


 イロリというのがこの人の名前で、僕たちの担任なようだよ。


「ふ~ん。こいつらがねぇ」


 視線を横に走らせて僕たちをざっと見た後、先生はあまり関心がなさそうに耳を穿っていた。目が常に半目状態で気だるそうにしている。


「お、おいおい。こんなやる気なさそうな教師で大丈夫なのかよ?」

「それはお前ら次第だろうさ。とにかくイロリ。後はお前に任せたぞ。お前みたいな落ちぶれた三流教師と違って、こっちは他の未来ある生徒のこともあって忙しいのだからな」

「ちょっと。それじゃあまるで私達に未来がないみたいじゃない」

「――フンッ」


 眉間に皺を寄せ、鼻を鳴らした後ゲズルが去っていった。結局僕たちはこのイロリという担任教師に任されて残された形だ。


「えっと、僕たちの先生でいいんですよね?」


 とりあえずイロリ先生に尋ねる。ここまで来た以上後の細かいことはこの先生に聞くしかないよね。


「あん? あぁ、ま、そんな話だったな確か」

「いや、そんな話だったって――そもそも寮兼校舎って言われたけどどうしたらいいんだよ?」


 胡乱気な顔でアズールが先生にこの先のことを聞いた。


「さぁな。そんなのお前たちで勝手に考えろ」


 だけど、イロリ先生の答えはなんとも突き放したようなものだった。


「いや――勝手にって初めて来たのだから部屋割りとか全然わからないし……」

「ふぁ~あ。こっちの窓側が授業する教室だ。寝泊まりするなら左半分の部屋を適当に使え。以上。後は好きにしろ。俺は寝る」


 そこまで口にしてイロリ先生が戻ろうとする。


「いやいや! 寝るって私達授業に使う道具も何も受け取ってないんだよ!」


 だけどアズールが待ったを掛けた。確かにまだ何も受け取っていない。


「教科書とかあるんですよね?」

「……そんなのは授業が始まったら渡す。あぁ、それとZクラスは八人って聞いてるからな。部屋はそれに合わせとけよ」

「え? 八人?」


 改めて数を確認したけど僕を含めても七人しかいない。


「七人しかいないじゃない」

「知ったことか。俺は八人って聞いてる。後で来るんだろう」

「後でって……流石に適当すぎないか?」

「それに入学式にも他にZクラスはいませんでしたけど?」


 皆が眉を顰めたり不満を口にしたりと初日から先生への不信感が募ってしまっているよ!


「えっともしかして僕たちの自主性を見ようとしてるのかもよ。ね? だからとりあえず部屋を見に行こうよ」


 これから一緒にやっていくのにあまり雰囲気が悪くなるのもよくないし、皆を窘めてひとまず寮に向かうことを提案した。


「全く見当違いなこと言いやがって。俺はただ面倒なだけだ。そもそも今日は授業だってないしこっちはのんびり寝てたいんだ。いいか? 外が騒がしいから来てやったがこれ以上俺の手をわずらわせるんじゃねぇぞガキども」


 皆が唖然とする中、イロリ先生は踵を返して校舎に戻っていた。


 は、はは。なかなか変わった先生だね。


「じょ~だんじゃないわよ! 特別クラスだって言うからちょっとは期待したのに何なのこの扱いは!」

「ま、まぁまぁ」

「ふぅ。初日からこれじゃあ先が思いやられるかもね」


 女の子たちは口々に待遇について文句を言っていた。一人はたしなめようとしているし包帯を巻いている子は口数少なめだけどね。


「――これが部屋ってマジかよ……」


 そして部屋を見て回った僕たちだったけどアズールが絶句していたよ。他の皆も似たような物かも。


 廊下も軋むし至るところがカビだらけだし、部屋はホコリまみれだ。何か最初に【鼠の住処】で泊まった時のことを思い出す。


「トイレも共同だし、魔導設備じゃなくて旧式だし臭いし、それにお風呂もないじゃん! 最悪最悪最悪~~~~!」


 ツインテールの少女が特に不満そうにしていた。

 ただ魔導設備に関しては魔力のない僕にはありがたかったり――


 さて部屋数は多いから皆で一部屋ずつになりそうだね。


「こんな汚い部屋で生活かよ……」

「あ、でもほら。部屋は結構広いよ」

「でもベッドもないし。まさか床にこのまま寝ることになるのかな?」


 広さでフォローを入れてはみたけど、確かに部屋には本当何もないんだよね。窓が一つだけある部屋で後は蜘蛛の巣がところどころに張られているぐらいだ。


 間取りは皆一緒だし部屋割はすぐに決まったよ。


「はぁ、早速気が滅入ってっきた」

「あはは――あ、そういえば皆まだお互いのこと知らないよね。軽く自己紹介でもしておこうか?」


 灰色髪の少年がそう提案した。確かに色々あってまだアズール以外名前も知らないもんね――

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