第196話 魔力0の大賢者、寮に案内される
「私が今回赴任した聖魔教会司教ゼミラル・ローハイムだ。元々魔法学園では教会に伝わる治療魔法の教義も行なっていたようだが、より生徒諸君に教会についての見識を深めて貰う為に協力させていただくことになった」
壇上では聖魔教会の司教という男性が熱く語っていた。それにしても聖魔教会か……転生前は聖光教会だけだったけど五百年も経てば色々変化もあるよね。
壇上で拳を振り上げて何か教会の意義みたいのを聞かせているゼミラルはとても恰幅がいい男性だ。丸顔で頭の中心部だけに銀色の髪が生えていて額のあたりで毛先が渦を巻いている。
年は父様より少し上ぐらいかな? もう二人の内エミスと紹介された女性司祭は波のようにウェーブの掛かった黒髪の女性で綺麗な人だ。ただ表情の変化が少ない人だね。
ウリエルという司祭は終始ニコニコした穏やかそうな人だ。長身痩躯な人で癖の強い青髪の男性だ。
今は教会の三人が前に出てる形だけど紹介される先生は後一人いるみたいだね。
「――私が声を大にして言いたいのは未だに一部の国や地域で魔力ゼロの大賢者などという何の根拠もない与太話が信じられていることだ! 先程おとぎ話と言われていたがおとぎ話とは言えあのようなデタラメが我々の発行する教典よりも有名などありえない話だ!」
な、何か妙な方向に話が逸れたような――
それから更にゼミラルの大賢者批判が続いた。
「あはは、結局それってただの妬みじゃないのかな~?」
「何だと!」
ゼミラルがキッと口を挟んだ師匠を睨んだ。
し、師匠! はっきり言っちゃった! 昔からそうだけど遠慮がない!
「ふん。最近になってようやく己の価値観の低さを知り、人間様にすり寄ってきた亜人のエルフ風情が偉そうに」
「司教、それ以上は――」
リカルドが割って入りゼミラルを窘めた。それにしても教会から派遣されてきたのにあの言い方――
「え~最後になるがもう一人新しく赴任となったバローネ教授だ。彼はここ最近になって魔導生物学に関する論文を次々と発表し学会でも注目されている逸材。そのような教授が我が学園に赴任してくれたことはとても名誉なことだ」
そしてリカルドに促されきちっと纏められた紫髪の男性が挨拶した。細目で眼鏡を掛けている。有名な教授なようで知的な雰囲気があるね。
「今紹介に預かったバローネだ。生物学を担当する。趣味は解剖だ。興味があるなら申し出てくれればいつでも解剖して差し上げよう」
「「「「「「へ?」」」」」」
挨拶を聞いた生徒たちが一様に目を丸くさせた。えっと、解剖って……
「フッ、勿論冗談だ。アハハ――」
微笑を浮かべバローネが言った。な、なんとも周囲を凍りつかせる冗談を言う先生だなぁ。
「――さて。以上で新しく赴任となった教師の紹介を終える」
そして入学式も終わりを告げる。最後にリカルドから今日から僕たちは寮での生活となること。教科書など必要物については担当となる教師から説明されると言っていたね。
さて入学式が終わったよ。寮がどこにあるかは学園の案内図に記されているようだから確認にいかないとね。
「お前たちどこへ行くつもりだ」
そう思って皆で移動しようとしたのだけど、案内図を見に行こうとしたところでゲズルから声が掛かった。
「何って寮の場所を調べにいくんですよ」
アズールが答える。するとゲズルがふんっと僕たちを見下しながら答えた。
「その必要はない。貴様らの寮はまだ案内図に載ってないしな。だからこの私が直々に案内してやろう」
こうして僕たちはゲズルの案内で寮に向かうこととなった。
「先生いつまで歩かせるんですかぁ?」
「文句を言うな。全くこれだからZクラスは」
同じクラスになった女の子が不満そうに口を尖らせた。案内してくれると言っていたけど、元いた場所から随分と離れている。授業を行なう校舎からもどんどん遠ざかっていくしちょっとした山の中に入ってしまっていた。
「あの、ここってもう山に入ってるんですが」
「安心しろ。ここも学園の所有する山だ。何の問題もない」
「しかし、まともな道もないような……」
「ほぼ獣道だよね――」
皆段々と不安になってきているようだ。僕からするとこういう山の中というのも馴染み深いんだけどね。
前世では師匠と長年山暮らしを続けていたし。
「ほら、もう着くぞ」
そしてゲズルについていった先に僕たちが生活することになる寮が姿を見せたのだけど。
「は? こ、これが俺たちの暮らす寮?」
「すごいボロボロ……」
「嘘でしょ! なにこれお風呂は? トイレは?」
「イメージ図と違い過ぎだよぉ」
皆から不満の声が漏れた。う~んそれにしてもこれまた随分と古い建物だね。木造でかなり傷んできているよ。
「文句を言うな。お前たちは今日からここで暮らし授業も受けるのだからな」
「は? じゅ、授業もだって!?」
「冗談でしょ! だって向こうに立派な校舎があるじゃない!」
「馬鹿を言え。お前たちZクラスが本校舎で学べるわけがないだろう。だから特別に旧校舎を修繕して寮兼校舎として使えるようにしてやったんだ」
「修繕、これがかよ……」
青髪の少年が顔をしかめる。う~ん、確かにとてもそうは見えないけど……
「あの、理事長が担任の教師から説明があると言っていたけど、もしかして貴方が僕たちの担任に?」
「ふざけるな! なぜこの私が貴様らのような落ちこぼれの担任にならないといかんのだ! お前たちの担任なら――」
「ふぁ~あ。なんだか騒々しいなと思ったらゲズルか。で、そのガキは何?」
「……ふん。おいでなさったぞお前たちの担任がな」
僕が聞くとムキになってゲズルが否定し、そして欠伸をしながら一人の男性が姿を見せた。ボサボサの黒髪で薄汚れたシワシワのコート姿だ。
それにしても、今ゲズルが担任だと言っていたけど、この人が?
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